「あ、違うよ慶賀くん。プリントには葛根《かっこん》は小の匙一杯半って」
「え、そうなの?」
「二杯なのは生姜と棗で、桂皮、甘草は一掴みだって。……桂皮ってどれ?」
「まあいいじゃん適当で。生薬って全部薬なんでしょ? 口に入れても害にはならないって〜」
月曜日、これまで科目担当の先生が病気で休講だった「神職漢方学」の授業が始まった。
先生から配られるプリントを見ながら、正しい分量で漢方薬をつくる授業で、私は慶賀くんとペアになって「葛根湯《かっこんとう》」を作っていた。
神職漢方学は高等部からの授業らしく、みんなと同じスピードで学べることにまずほっとした。
なのでいつもよりは心に余裕も持って授業に参加できる。慶賀くんとおしゃべりしながら授業に取り組めているくらいだ。
薬研と呼ばれる薬種を砕くための道具をきこきこと動かしながらふたりでああでもないこうでもないと首を捻る。
「こら慶賀、巫寿くん」
「あ、やべ」
ギクリと肩を上げた慶賀くんの頭の上にぱこんと教科書が降ってくる。
ふたりして顔を見合せて振り返る。
「豊楽《ほうらく》先生」