「空亡戦が始まった時、最初はみんな空亡を払う気でいたんだよ。でも、祓おうと神職たちが総出で動いた結果がああなってしまった。空亡を封じれる神職は今の代にはいないんだよ。だから最初から空亡は封印すべきだって言っていた人たちと、意見が割れてふたつの派閥ができたんだ」


神職が総出で戦って、みんなが尊敬し敬う禄輪さんでさえ、空亡を祓い切ることができなかった。

敵はそれだけ強力で、簡単に祓うことができない相手ということだ。


「俺はやっぱり、本庁派の考えに納得できねえな」


頭の後ろで腕を組み、転がっていた石ころを蹴飛ばしたのは泰紀くんだった。


「俺の両親さ。空亡戦で大きな怪我をして今も病院にいるんだよな。親父は足を無くして歩けねえし、母さんは心を病んだせいでろくに口も聞けねえんだ」


え、と言葉を失う。

いつも慶賀くんとつるんで悪戯したり来光くんを巻き込んで騒いで、「三馬鹿」と呼ばれるくらい明るくてお調子者の泰紀くんだ。

まさか家族がそんなことになっているなんて、普段の泰紀くんからは想像もできなかった。


「俺以外にも大切な人を失った人はたくさんいると思う。だから、俺は両親がああなるきっかけになった本庁の考え方も、その空亡戦を当時見ていたはずなのに考えを変えない本庁派も許せない」


悔しそうに、もどかしそうに、一言一言を噛み締めるようにそう言った。その気持ちが痛いほどに伝わってきて言葉にならない。

嘉正くんが私に、安易に決めてはいけないと言った理由が何となくわかった気がした。