「もうちょっと探してみるね。ありがとう、青女房」

「はいよ! 慶賀達にも、店に顔見せたら菓子渡してやるって伝えといてくれな!」

「分かった、伝えとく」


じゃあな巫寿!と手を振られ、私たちは青女房の出店を後にした。


「嘉正くん、あの人って」

「青女房って妖だよ。僕らが小さい頃からずっと良くしてくれてる妖なんだ」

「ただの綺麗なお姉さんかと思った……」

「ははっ、確かに喋らなければ綺麗なお姉さんだよね。でも良い妖でしょ?」


うん、と頷いて恐る恐る当たりを見回した。

毎年お兄ちゃんと行っていた夏祭りの縁日と同じような、沢山の屋台が並ぶ社頭。

店を覗き込むのは人間の姿だけれど、しっぽや耳が生えたり、羽があったり真っ赤な顔で鼻が長い人もいる。


「お嬢ちゃん、ちょっとごめんよ」


そう言って私の横を通り過ぎたのは、大きな一つ目で男の姿をした妖だった。

思わず嘉正くんの腕を掴むと、心配そうに顔をのぞきこんだ。


「大丈夫? 下向いてなよ」

「だ、大丈夫、平気。ちょっと驚いちゃっただけ。怖くはない、と思う」


嘉正くんが少しだけ目を見開く。

強がりで言った訳ではなく、本当にそう思った。


多分、青女房と少しだけ話したからだろう。怖いという気持ちばかりが先走っていたのが、少し薄らいだ気がする。