「その、ここに来る前に……魑魅に襲われたことがあって」
今思い出すだけでも心臓がバクバクとうるさい。
割れたガラス、荒れた部屋、首を絞める得体の知れない何か、殺意。
二人は歩みを止めて目を見開いた。
「魑魅に……襲われたの? 力を持っている神職でさえ苦戦する妖だよっ!」
「よく、無事だったね……。助かって本当に良かった」
「禄輪さんが助けてくれたの。来てくれなかったら、きっと多分今頃、」
その先はおぞましくて口に出すのも憚られた。
「その時のこと思い出してしまうの。ここに来る前にね、禄輪さんと知り合いの巫女さまが、妖を連れて会いに来たの。真っ白い妖狐の神使と家鳴、だったかな。"悪い妖ばかりじゃないんだよ"って教えてくれたの。でも、どうしても、あの日のことがフラッシュバックして」
「────向いてない、お前」
嘉正くんでも来光くんでもない、第三者の声。
「え?」と皆して振り向けば、少し離れたところに恵生くんが立っていた。