「やっほー巫寿! いい月夜だね!」
「みんなどうしたの……! そんなところ登ったら危なよ!」
「大丈夫大丈夫、慣れてるから」
はは、と笑った嘉正くん。
慣れてるって……。
「それよりも、ちょっと今から抜け出さない? 今日は週末だから、出店が出てるよ。先週誘おうとしたんだけど、巫寿疲れて寝ちゃってたから」
「出店? 学校に出店がくるの?」
「そうそう。楽しいよ!」
「でも、もうすぐ子《ね》の刻だよね……?」
学生は23時が就寝時間になっていて、全ての電気が夜間灯になり玄関の鍵が閉まる。だから23時以降は学生は外に出れないし、出てはいけない規則になっている。
「ダイジョーブ! バレないようにすぐに帰ってこればいいよ!」
「ほら巫寿! 手伸ばせ!」
身を乗り出した泰紀くんが私に手を差し出す。
少し躊躇って、窓に足をかけてその手を掴む。泰紀くんが「よっ」とその手を強く引けば、ふわりと体が浮いた。
ばさりと葉っぱが揺れて枝の一番太いところに着地する。
バクバクとうるさい心臓を服の上から押さえる。顔を上げると「ひひっ」とみんなが悪戯っぽく笑った。
その時、カラカラと窓が開いた。一階の真ん中あたりは寮監の部屋だ。