「その後、禄輪禰宜が幽世へ派遣されたのは話したよね。 審神者ひとりと475名の神職が亡くなったて、空亡戦は一旦終息した。────これが空亡戦のおおまかな話かな。僕も産まれる前の事だから、詳細には知らないんだ。大人は話したがらないから、書物に残っている記録でしか知らなくて」
申し訳なさそうにそう言った嘉正くんに静かに首を振る。
475名の死者。あまりにも現実離れした数字に、ぴんとこなかった。
けれどそのうちの2人は私のお父さんとお母さんだ。
そう思うとかっと目頭が熱くなって、咄嗟に唇を固く結ぶ。
きっと私のように、両親をなくした子供や家族や大切な人をなくした人は亡くなった人の数以上にいるんだろう。
ああ、でも。
そっか。そうなんだ。
お父さんとお母さんは、そんなに強い敵と戦っていたんだね。
今なら両親の気持ちが痛いほど分かる気がする。
病院から帰ってきたあの日、目の前の妖と対峙して殺されそうになった時、怖くてたまらなかった。
苦しくて恐ろしくて、手も足も出なくて。
もう死ぬんだって絶望した。
でもお父さんとお母さんは、空亡と対峙した時、恐怖や絶望に飲み込まれてしまいそうになりながらも、我が身を守るよりも先に私達のことを守ってくれたんだね。
堪えていた涙が睫毛を越えた。はたはたと石階段を落ちる雫が染めていく。