その時のふくらの社の神主さんのことを想った。

いきなり現れた目の前の強大な敵。考える余地もなく、逃げる余地もない。

限られた選択肢と突然突きつけられた運命に、どうして自分が犠牲になってまで社を閉ざすことを選べたのか。


「そこからは、敵が空亡である事が分かって本庁も対策本部を作って、沢山の神職が空亡を祓うために戦ったんだ。空亡に就く妖もいて、どんどん戦いは激化した。それで、十二年前」


ばくん、と心臓が脈打つ。

私の両親が死んだ、十二年前だ。


「禄輪禰宜が空亡の体の二十分の一を祓って、突然空亡が自分の身を八つ裂きにしたんだ。 バラバラになった体は方々へ散ろうとしたけれど、当時の審神者さまが自分の魂にその散った残穢の五分の一を封じ込めた」


審神者、その言葉を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられるような感じがした。

それはとても悲しくて苦しくて、無性に泣きたくなる懐かしい響きだった。


知っているはずなのに知らない。かむくらの社で鎮守の森に入った時と同じ感じがする。