本殿の近くまで歩いてきた。

社頭で慶賀くんたちと話をする禄輪さんの姿を見つける。


座ろうか、と促されて拝殿に繋がる階段に並んで腰かける。


「その後すぐに、妖たちが無差別に殺される事件が起きた。けれどこの頃はまだ、みんな空亡が出現したなんて思ってもいなかった。けれどその二年後、ひとつの社が一瞬で滅ぼされたんだ。ふくらの社という社で、まねきの社と同じくらい歴史が長く由緒ある神社だったんだ」


ふくらの社────芙倉《ふくら》の社。その名前はたしか、社史の教科書でちらりとみたような気がする。


参道のすぐ隣に溜池があって、蓮と亀が泳いでいる綺麗な社の挿絵がそばにあった。



「そこに、妖の姿である空亡が現れて一瞬で社は滅ぼされたんだ」

「────待って。初めて現れた時は、山ひとつが消えたんだよね……? どうして今回は、社だけですんだの? それに、なぜ一瞬で滅んでしまったのに、現れたのが空亡だったことが伝わっているの?」

「現れたのが社だったからだよ。その神職は、空亡が現れたその瞬間、表の鳥居も裏の鳥居も閉ざして社を閉じたんだ」


嘉正くんの言葉を理解しようと自習で勉強したことを必死に思い出す。