「現世でも幽世でも、空亡がその本当の姿を表せば世界が終わってしまうんだ。一瞬で燃えて、何も無くなってしまう」


ばくん、と大きく鼓動が波打つ。


「その空亡が現れたのは、僕らが生まれるちょうど三年前。今から十八年前に突然現れた」


突然現れた? と聞き返す。

だって、『百鬼夜行絵巻』が描かれたのは室町時代だ。少なくとも、室町時代には存在していたということになる。

強い妖ほど長寿なのだと薫先生が言っていた。妖狐や天狗なんかは、五百から千年は生きるものだっているらしい。


だったら空亡だってそれくらいは生きていてもおかしくない。それなのに十八年前に現れたというのは少しおかしい。



「誰もわかっていないんだよ。空亡が今までどこにいたのか、なぜ今現れたのか。神職達が総出で調べても、残っていたのは木々が燃えた焼け野原だけだった」



嘉正くんが言うには、一番初めに空亡が現れたとされるのは、東北地方のとある小さな山の置くらしい。

けれど今その山は厳重に警戒が敷かれて閉ざされている。空亡が現れた瞬間、その山は一瞬で燃え尽き、灰の山になったからだ。