淡々と答えた恵生くんは静かに席に座ると教科書に視線を落とす。


「中等部で学んできたであろう基礎をいちいち振り返るような無意味な行動はしない。授業は予習しているものとして進める。今日から五回に分けて狐憑きに対する憑物呪法について教える。先程の文字に灸を据える方法は『浄土権化標目章』に出ているもので────邪魔だ座れ」


黒板に文字を書きながら、低い声でそう言った先生。

俯きがちに席に座った。

いつの間にか止めていたらしい息を思い出したかのように吐き出す。



そして張り詰めたような空気の中授業が終わり、あの先生は玉富嬉々という名前の先生であることを知った。


「おいおい、見たかよあの不気味な顔!」

「女の人に失礼だよ」

「え!? あいつ女の人だったのか!?」


仰天する泰紀くんに、私もこっそり心の中で同調する。


「俺、先輩から聞いたんだけど、まじであの人怖いらしいよ! 噂じゃ、夜な夜な色んな社を徘徊して藁人形を集めてるとか……」


ひええ、と両腕を抱きしめた慶賀くん。

他にも、嬉々先生は女性だが巫女ではなく神主として奉仕しており、高等部では憑物呪法や呪学系全般を担当していることを教えてくれた。