ズズ、ズズ、背後から何かが地面を這う音がする。サク、サク、雪を踏み締め何かがこちらに近付いてくる足音がする。


駄目だ、駄目だ今すぐに走らないと。
動け、動け動け私の足ッ。


ガクガク震える足がなんとか一歩前に出た。それで弾みが着いたように足が動き出す。

脇目も振らず走った。
どどど、と心臓が爆発しそうなくらいに早打つ。冷たい空気に喉の奥がひりついて苦しい。

迫る"何か"の音は一定の間隔で後を追って来ているようだった。もうすぐそこにまで来ているような気もして、振り返ることが出来ない。


「……あ、危ない目に、会いませんように、怖いものを、見ませんように……っ、」


無意識に「行ってきますのおまじない」を呟いた。
もつれそうになる足を必死に動かして、角を曲がった。アパートが見えた。


その時、アパート一階右端の部屋の扉が開いた。一階右端は玉じいの部屋だ。

走ってくる私の姿を見つけて驚いたように目を瞬かせる。
迷わずその部屋に飛び込んだ。