あまりの大きな音に、びくりと肩を震わす。
楽しげに雑談していた慶賀くんたちも、目を見開いて固まった。
瞬きした次の瞬間、誰も立っていなかったはずの教壇の前に紫袴を身につけた女性が立っている。
髪は肩につくくらいのながさで自分で切ったかのように不揃いで、顔の右半分は長い前髪に隠されていた。
髪の隙間から見える肌は驚くほど白く、少し不気味なタレ目が、私たちを見下ろした。
「……何をしている。座れ」
次の瞬間、机の上に腰掛けていた慶賀くんは肩を強く押されたかのように体がのけ反り、「うわあッ!?」と悲鳴をあげる。
そのまま椅子の上へすとんと尻もちを着いた。
「私の授業で私の邪魔をするもの私の時間を無駄にするもの私の発言に反論するものは即教室から叩き出す。教科書七十一頁狐憑きについて被憑霊者《ひひょうれいしゃ》が狐憑きであるかを知る方法はなんだ椎名巫寿立て」
一拍遅れて、自分が指名されていることに気がついた。
先生に見下ろされて、身を固くしながら恐る恐る立ち上がる。
「あ、あの……えっと……」
「京極恵生立て」
すっと立ち上がった恵生くん。
「被憑霊者の左右の手を指を輪にして、輪の中に「狐」の字を書きその字に灸を据えます。「狐」の字に「狐」の本体が備わるため、憑霊していれば熱がる素振りを見せます」