授業初日の朝、禄輪さんから手紙を受け取った日から騰蛇と「結び」を作ることを頑なに避けてきた。
「結び」の作り方は騰蛇から聞いて、やり方は知っている。
妖でありながら穢れを嫌う唯一で潔白な存在、十二神使という特別な妖の騰蛇。
使役するのに特別な方法は必要なく、ただ私が一言「我が元に下れ」と言えばいいらしい。
また後で、そう言ってからもう何日も経っているのに、一度も騰蛇を呼んだことは無いし、結びを作ろうともしなかった。
忙しいからと理由をつけて先延ばしにしていたのは、結局、私がこの世界やこの力を受け入れられていないからだ。
「神修は学ぼうとするのもしないのも自由だ。巫寿は言わば、別の運命に巻き込まれるようにしてここへ来た」
「でも……私が行きたいって言ったんです」
「そうだ。だから、ここで学びを続けたいなら、全力でそれを支えるし、もし自分の道が別のところにあると思うのなら私はそれを応援したい」
どうして。
どうして禄輪さんは、いつもここまで良くしてくれるんだろう。
ひとりになったとたん何も出来なくなって、助けて貰ってばかりで迷惑もかけてしまう。そんな赤の他人の私に、どうしてここまでしてくれるんだろう。