文殿の一角は小上がりになっており、文机がずらりと並んでいる。
本棚の前には机と椅子が設けられていて、自由に勉強したり読書に耽《ふけ》ることが出来る。
方賢権禰宜の式神に案内された棚の前に腰を下ろして、取ってもらった書籍を開ける。
……うん、これなら私にでも読めそう。
ほっと息を吐き、その隣にノートを開いてペンを走らせた。
集中して勉強していると、気がつけば窓から差し込む光が真っ赤に染っているのに気が付いた。
もうそろそろ十九時を知らせる鐘がなる頃合いだ。
鐘が鳴るまでもう少し頑張ろう。
そう思ってノートに向き直ったその時、
「巫寿」
どこからか名前を呼ばれて顔を上げる。
当たりを見回して、棚の影に誰かいるのに気がついた。
棚に手をかけたその人が顔をのぞかせる。
見知った顔に思わず立ち上がった。
「禄輪さん……!」
「おっと」
慌てた様子で当たりを見回した禄輪さんは、唇に人差し指を当てて「しっ」と笑う。
「すまん、巫寿。今逃げている最中なんだ」
「逃げてる……?」
「ちょっと、まあ色々あって。色んなところで追いかけ回されててな」
曖昧にそう言ってはぐらかした禄輪さんは、私に歩み寄るとぽんと私の頭を撫でた。