家の最寄り駅に着くと振り向かずに走った。地下のホームから抜け出して改札を飛び出でる。

少しだけ月明かりが差して、積もった雪が道を明るく照らしていた。

ほっと息を吐いて足をゆるめる。あと何回か曲がれば、自宅のアパートが見えてくる。

よかった、と肩の力が抜けたその時、ふ、と顔に影がさした。

歩みを止めて、弾けるように顔を上げる。月に雲がかかっていた。煌々と輝いていた月は分厚い雲におおわれて、僅かな鈍い光だけを発する。

辺り一面の暗闇が深くなった。

次の瞬間、全身の肌がぶわりと粟立つ。


「────っ!」


刺すような視線を感じた、あちこちからだ。まるで喉元にナイフを突きつけられているかのような息苦しさと緊張が走る。

それを殺意というのだと、考えるまでもなく理解する。


全身の細胞が警鐘を鳴らしている────「逃げろ」と。