賀正くんに教えて貰って、放課後は文殿《ふどの》で過ごすようになった。
本殿から赤い太鼓橋で繋がつもている建物のひとつで、言霊や妖、社についてのたくさんの書物が納められている。
虫食いだらけの古い巻物から最新の書籍まで揃っていて、勉強するにはもってこいの場所だった。
「巫寿さん、こんにちは」
「方賢《ほうけん》権禰宜《ごんねぎ》、こんにちは」
文殿の入口の文机で書き物をする細目の男性。
放課後文殿へ来るようになって知り合った、一《にのまえ》方賢《ほうけん》さん。
まねきの社の権禰宜で文殿の管理の一切を任されているのだとか。
いつも参考になる書物をアドバイスしてくれる。
「このところ毎日勉強しに来ていますね。感心します。ほかの一年生も見習って欲しいものですね」
近くの小窓から外に視線を移した方賢権禰宜は小さくため息を着く。
頭からツノが生えそうな勢いで怒っているまねきの巫女さまと、社頭を掃き掃除させられている慶賀くん達の姿があった。
あはは、と苦笑いで肩をすくめる。
「今日も読み書きの書物を?」
「あ……はい。それと、憑霊観破の基礎を勉強できて、私にも読める文字で書いてある書物ってありますか?」
「憑霊観破ですか。確か、五十二ノ棚にありましたね。棚が高いので僕の形代《かたしろ》に取らせましょう」
方賢権禰宜は懐から袱紗《ふくさ》を取り出して、形代を取り出す。ふっと息を吹きかけると、大きくなった形代が私の横に立った。
指示を与えればその通りに動くので、神職の多くが形代を使っている。
この文殿にも至る所に方賢権禰宜の形代が居て、掃除をしたり書物を片付けたりしているのを見かけた。
「巫寿さんを案内しなさい」
こくりと頷いた形代が歩き出す。