私のいちばん古い記憶に、両親の姿はない。物心着いた頃にはもう既にお兄ちゃんと二人暮しだった。
両親の顔はお兄ちゃんにアルバムで見せてもらったことはあるけれど、あくまで写真の中でしか見たことがなかった。
画面越しだけれど写真では無いお母さんの姿は胸が熱くなった。
「お母さん、すごく綺麗……」
「泉寿さんは、100年に1人の逸材と言われたほどの神楽舞の名手だったの。先生も、すぐに教えることなんて無くなっちゃったわ〜」
そういえばかむくらの社で禄輪さんから、お父さんはお母さんの神楽舞を舞う姿にベタ惚れだったと言う話を聞いた。
実物を見て納得してしまう。
きっとお父さん以外の男の人も、皆お母さんに見惚れていたんだろうな。
「さ、見入ってしまう気持ちは分かるけれど、授業中ですからね。今日は泉寿さんをお手本にして、練習していきましょう」
「はい……!」と力強く頷く。
なんだか今日はいつもよりも力がみなぎる気がする。お母さんに応援されている気がした。