「奏上する祝詞は略拝詞《りゃくはいし》。初回の授業で軽く触れたやつだけど、覚えてる?」
略拝詞、首から下げている巾着袋にそっと触れた。
かむくらの社で禄輪さんに「略拝詞」を書いてもらった紙がその中に入っている。
お守りがわりにして、今は毎日持ち歩いている。
「……えっと、はい。────祓《はら》え給《たま》い 清《きよ》め給《たま》え 神《かむ》ながら守《まも》り給《たま》い」
「あ、ちょっと待」
確認代わりに口ずさむと、薫先生は慌てたようにそう声を上げる。
「……? 幸《さきわ》え給《たま》え」
その瞬間、頭のてっぺんからさあっと力が抜けていくのがわかった。
あ、そういうことか。
と理解したときには遅く、意識がふっと途切れた。