薫先生は私の前に片膝をつく。


「巫寿は今、言霊の力を使おうとすると、その力の全てを使ってしまう状態なんだ。言い換えれば、車を運転するときにアクセル全開の状態だね。時速100キロみたいな。あはは、スピード違反じゃん。危ない危ない」


そう言って木のそばに転がっていた掌くらいの大きさの小石を拾い上げた。

ふう、と息を吐いて、次の瞬間。


「────呪え」


いつもの朗らかな声とはまるで正反対の、真冬の鉄筋に触れるような鋭さの声色でただ一言そう呟いた。

全身の肌が泡立つ。喉にナイフを突きつけられるようなこの感覚は、紛れもない殺気だ。



「はい完成」



薫先生は手に乗せていた石を私に差し出した。

何の変哲もない石、のはずだった。



「靄が……」


その小石にまとわりつくように黒い靄がかかっている。


「そ。俺が今呪った。巫寿が可視しているのは、俺がかけた呪いだよ。と言っても、所有者が一回転ぶ程度の効力しかないけれどね。触ってもそんなに害はないよ」


薫先生は私の手のひらにそれを置く。

触れた瞬間、ぞわりと背筋に嫌な感覚が走る。


「まずはこの位の小さな呪いを小さい出力で倒れず祓えるようになろうか」