演習場となる白砂が敷き詰められた屋外の施設に集合した私たち。
始業を知らせる鐘がなってから、少しして薫先生がやってくる。
何やら小脇に古びた壺を抱えていた。
「ごめんごめん。購買のおばちゃん口説いてたら遅れた」
「何やってんだよセンセ〜」
薫先生が授業に遅れてくることはしょっちゅうらしく、ここ数日の付き合いだけれどあの性格なら仕方ないと納得する。
「じゃあ演習の授業で教えた火鎮祝詞、早速奏上してみよっか」
そういった先生は、私達の真ん中に抱えていた壺を置く。
覗き込むと、蓋の部分に仰々しく御札が張り巡らされていた。
「薫先生、これは……?」
「神職が集めた怪火だよ。えっとね」
壺のそこをひっくり返した薫先生。
「お、去年の12月にうちの権禰宜が対峙した阿紫霊狐《あしれいこ》の怪火ってラベルにあるね。新鮮だから活きがいいよ。すぐには消えないかもねぇ」
まるで賞味期限の話でもするようにそう言う。
「じゃ、各々習ったことを思い出しながら火鎮祝詞を奏上するように。祝詞の一言一言にはきちんと意味がある。意味をしっかり自分の中で解釈することで完成度も変わってくるからね」
はーい、とみんなが返事をしたのを確認して、薫先生は御札を外す。
その瞬間、鼻先でオレンジ色の炎が燃え上がった。