それでも悔しくてノートだけは必死にとった。
教科書は読めないけれど、先生の言葉ならわかる。ノートを取ることに集中したせいで内容は頭に入ってこないけれど、学校が終わって復習すればいい。
板書にだけ集中していたらあっという間に50分が過ぎた。授業の終わりと昼休みを知らせる鐘が遠くで鳴り響く。
「あー長かった! 早く食堂行こう!」
教科書を放り投げた慶賀くんが飛び跳ねるように立ち上がる。
「慶賀! 白飯大食い競争しようぜ!」
「いいぜ、晩飯のデザートかけて勝負な! 来光ももちろん参加するんだぞ」
「なんでいつも僕を巻き込むんだよ……!」
泰紀くんにヘッドロックをかけられながら、来光くんは悲痛な声で反論する。
「相変わらずバカだなあ。巫寿、俺らも行こう」
教科書を机にしまった嘉正くんが立ち上がる。
「あの、私まだノートちゃんと取れてなく。だから後から行くね」
「ノートなら後で俺の見ればいいよ。先に食堂行こう」
「でも、すぐに返せないと思うし……」
「巫寿スマホ持ってるよね? 写真に撮っていいから」
でも、とまだ言い篭ると嘉正くんはぴんと私のおでこを人差し指で弾いた。
「大丈夫だよ。わからないところは何回でも聞いてくれていいし、ノートだっていくらでも貸すから。今はご飯。薫先生からちゃんと食べるように言われてるでしょ」
そう言われて、俯くように一つ頷いた。