小学生になり、一人で学校へ行かなければならなくなった私がちゃんと一人で学校へ行けるように。
たぶんそんな意味を込めて、お兄ちゃんはおまじないをかけてくれていたんだと思う。
でもそのおかげで、暗闇に何かいるような気もしなくなったし、一人で出歩けるようにもなった。
何よりも、そのおまじないをかけてくれるお兄ちゃんの声が好きだった。その温もりは、両親の記憶が薄い私にとって唯一感じた家族の温もりだった。
私たち兄妹を繋いでくれた、大切なおまじない。
なのに、私は。
どうして、今日はお兄ちゃんを振り切って家を出てしまったんだろう。いつもは嫌々でも、ちゃんとおまじないをしてたのに。
こんなことになるなら、ちゃんとお兄ちゃんと話せばよかった。こんなことになるなら、朝ごはんも食べて、お弁当も待って、しっかり行ってきますって言えばよかった。