「それにしても、今回でよく分かったけど、どうやら巫寿は生まれつき備わっている"言祝ぎ"の性質が非常に高いらしいね」


顎に手を当てた薫先生は続けた。


「分かりやすく言うなれば、霊力はおちょこ一杯分くらいしかないけど言祝ぎの性質は琵琶湖一個分くらいはあると思う」


ええ! と驚きの声を上げたのは私以外の皆だった。

いまいちピンとこず、ただそれが普通とは異なることだけは何となくわかった。

私がよく分かっていないのに気がついたのか、嘉正くんが口を開く。


「霊力────言霊の力と呼ぶ人もいるね。霊力には言祝ぎと呪の二つの要素《ちから》が組み合わさってできてるのは知ってる?」


あ、と"かむくらの社"で禄輪さんから教わったことを思い出す。

『ああ。言葉を祝うと書いて言祝ぎだ。言霊の力は"言祝ぎ"と"(しゅ)"の二つの要素が組み合わさって出来ている。プラスとマイナスみたいなものだ』

確かそう言っていた。


「生まれたての赤ん坊は言祝ぎが強くて、成長するにつれて二つの要素は均衡になって行く。だから神職になる者は言祝ぎが強くなるように幼少期から修行するんだよ」

「どうして言祝ぎを強めないといけないの……?」

「うっかり人を殺しちゃうことがあるからだよ」



そう言ったのは薫先生だった。