あれは言祝ぎを高めるために、あえてそうしていたんだ。
「だから今後、祝詞を奏上する際は、たかーく、伸びやかーな声で唱えること」
薫先生はもう一度「たかーく、伸びやかーに」と言いながら蛇をびよびよと伸ばす。
少し蛇が可哀想な気がしてきた。
「じゃあ早速、やってみようか」
そう言われて、ばくんと胸が波打つ。
「緊張すると呪が高まる。赤ん坊に子守唄を聞かせるつもりで奏上してみな」
リラックスリラックスと背中を叩かれ、少しだけ緊張がほぐれた気がした。
高く、伸びやかな、明るい声を意識して────。
「……あふ坂やしけみが峠《とう》のかぎわらび」
身体中の力が、喉の奥に集まってくるような気がした。
その熱が、力が、私の口が紡ぐ言葉に移っていく気がする。
喉の奥が熱い。
「────其むかしの女こそ薬なりけり」
次の瞬間、私の周りを囲うように白い波動が生じた。
え? と目を瞬かせる。
振り返れば、それは水面に落ちた水滴が波紋を生むように、私を中心に大きくなりながら周囲一帯に広がっていく。
「わお」
そう呟いた薫先生を見る。
手に持っていた蛇は跡形もなく姿を消した。
「なるほど、そういう事か」
薫先生が呟いたその瞬間、頭から冷水を被せられたような寒気が全身を襲った。
あれ、この感覚って。
そう思った次の瞬間には、意識は深い暗闇のそこに引きづり込まれた。