「じゃあこんな調子でバンバン祓っていこうか」
「えっ」
そういった薫先生はまた生い茂る草に手を突っ込むと、蛇神の蛇を引っ張りあげる。
顔の前に突き出され、また「ひっ」と悲鳴をあげる。
「大丈夫、大丈夫。文言さえ覚えれば誰でも出来るから」
「え、えっと……あふ坂やしけみが峠《とう》のかぎわらび、其むかしの女こそ薬なりけり……?」
「おお、一回聞くだけで覚えたの? 耳がいいのは良い事だよ、優秀だなぁ」
興奮気味にそういった薫先生は蛇をぶんぶんと振り回す。
必死に身を捩って距離を取った。
そしておほん、とわざとらしく咳払いをすると蛇をマイクのように持つ。
「えー、祝詞を奏上する際の心得は沢山あるけど、まず一番に覚え無ければならないのは、言祝ぎの高め方」
「言祝ぎの高め方?」
「人を呪う時、楽しそうに明るい声で「呪ってやる」なんて言わないよね。反対に、人を祝福する時に低い怖い声で「おめでとう」なんて言わない。言祝ぎも呪も、声色だけで強めたり弱めたりできるということ」
ああ、だからなんだ。
禄輪さんが魑魅を払った時、巫女のお姉さんが「痛いの痛いのとんでいけ」と唱えた時、皆が報告際の祓詞を唱えた時、薫先生が霊狐を呼ぶ祝詞を唱えた時。
どの時も、全員、湧き出る清水のような清らかな声で言葉を紡いでいた。