「どうすれば、いいんですか……?」


私がそう聞けば、薫先生は少し口角を上げる。


「恵生が暗唱した祝詞はまだ難しいだろうから、もっと簡単なものに挑戦してみよう。「蕨の恩型」と呼ばれる呪歌《じゅか》だよ」

「呪歌……?」

「そう。歌の形式になった呪文で、今回は蛇除け効果がある蕨《わらび》の恩《おん》型と呼ばれる歌を一首覚えよう」


薫先生は目を閉じて深く息を吐き呼吸を整える。

そして僅かに唇を開いた。



「あふ坂やしけみが峠《とう》のかぎわらび、其むかしの女こそ薬なりけり」



その瞬間、薫先生の腕に絡み付いていた蛇の体から、黒い煙が蒸発するように発せられ、やがて跡形もなく空気中に溶けて行った。

あの時と同じだ。


禄輪さんと初めて会った日、魑魅と対峙して禄輪さんが祓ってくれた時と同じ────。



「はい、いっちょあがり」



薫先生は何も無くなった掌をひらひらさせて見せた。