名前を呼ばれた慶賀くんは、いつになく真剣な顔で考える素振りを見せた。



「鬼門の方角に向かって地を確認したら、草木が踏みつけられていなかった。この辺りに大きな妖はいないということ、つまり小型の妖……とか?」


「いいね、他には? 泰紀」


「残穢が濃くて粘土質っぽい気がする。もしかしたら、この地に住む守り神が祟り神になった……?」


「素晴らしい、エクセレント! さあ、どんどん行こう、つぎ来光!」


わざとらしく拍手した薫先生は、来光くんに手を差し出す。



「えっと……被呪者《ひじゅしゃ》の呪いは手足の怪我または腐敗だから、蛇神の祟り」


「大正解、素晴らしいよ少年たち! 昨年きっちり課外授業を受けさせた成果がしっかりと実を結んだねえ」



うんうん、と嬉しそうに頷く薫先生。



「じゃあこれらによってこの依頼ですべき事はなんだろうね、嘉正?」

「ここら一帯の修祓と蛇神の鎮魂、それで落ち着かなければ祓い、鎮魂出来れば祭祀を執り行います」

「その通り。じゃあ今嘉正が言ったのに有効な祝詞は? 恵生」



恵生くんはひとつため息を吐いて答えた。



「天迷々《てんめいめい》、地迷々《ちめいめい》、吾《われ》時を識《し》らず、天濛々《てんもうもう》、地濛々《ちもうもう》、吾蹤《われあと》を識らず、左渾鹿鳥《ひだりこんろくちょう》と為す。右鳥䳯三と為す。吾是大鵬《われこれたいほう》、千年万年王《せんねんまんねんおう》」


「言うまでもなく完璧。よし、じゃあよーいスタート!」