「朝のホームルームは別に伝えることないから無しね。1限目のオリエンテーションは毎年大したことしてないし、ちょっと楽しいことしたくない?って事で、出かけるよ」


ひひひ、と笑った薫先生。

楽しいこと?と首を傾げていると、皆は「ひっ」と息を飲んで我先にと逃げ出す。

え、え?

逃げていくみんなの背中と薫先生の顔を交互に見る。



蜘蛛の子を散らすようにあっという間に消えてしまった皆。


「あはは! 相変わらず逃げ足だけは早い代だなあ。でも────逃がさない」



楽しげに笑っていた薫先生の雰囲気が一変した。

口角だけをにっと上げて、据わった目で皆が逃げていった方角を見回す。

そして深く息を吸った。



「……言巻《いわまく》も綾に畏《かしこ》き、是の稲荷神《いなりのかみ》の御前《みまえ》に恐《かしこ》み恐《かしこ》みも白《まお》さく、家族達一同《やからたちいちどう》、身の罪穢れを祓い清めて祈願《こいねぎ》白《まお》す事の由は、我が稲荷神の神使霊狐《おおみつかい》の霊徳《みちから》に依りて悪しき事の災難に罹る事なく、楽しく勇ましく家内《いえのうち》睦まじく打揃いて家業《いえのなりわい》を勤み励みて、家門《いえかど》は朝日の昇る如く立栄《たちさか》えしめ、子孫《はつこ》は長久《とこしえ》に耐ゆる事なく、先祖《みおや》の御祭《みまつり》朝な夕な美《うるわ》しく仕え奉《まつ》らしめ給えと恐《かしこ》み恐《かしこ》みも白《まお》す」


祝詞を唱えたのはすぐに分かった。

低い声ながらも伸びのある、木琴が響くような美しい響きだった。



「先生……?」