「空亡戦のことは知ってる?」
低い声でそう尋ねられて、「少しだけなら」と答える。
「禰宜は本来、別の社の神主だったんだ。けれど空亡戦で社が潰れてしまって。彼はとても力の強い人だから、社の再興をする間もなく、空亡戦で破られた鬼門の修復をするために長い間鬼脈に遣わされていたんだ」
「まねきの社の禰宜っていうのは、とっても名誉のある役職なんだよ。けれど、あの人が禰宜になったのは、そんな綺麗な話じゃないんだよ! 自分の社を捨てさせて無理やり鬼脈に遣わせられて……その代わりにまねきの社の禰宜にしてやるだなんて、そんなのッ、そんなのあんまりだッ!」
カッとなった慶賀くんがいきり立ったその時、嘉正くんが咄嗟に抑えた。
落ち着け、と諭されて慶賀くんは唇をきゅっと結ぶ。
空亡戦は12年前のこと。ということはその禰宜は12年間もの間こちらの世界に帰って来れなかったということだ。
両親のいなかった12年間を思い出した。
私にはお兄ちゃんがいたけれど、心の奥底にはずっと隠しきれない寂しさがあった。
その人は、私以上に孤独を感じていたに違いない。