子どもは無邪気で残酷である。
施設の職員たちが凜花を疎ましがる姿は、同じ施設で育った子たちにとっては日常的な光景になり、いつしかみんなが凜花を蔑むようになった。


いじめというのは、ターゲットになる者がいる間は自分には被害が回ってこない。
そんなこともあってか、同じ施設に住む子どもたちも常に凜花を笑い者にした。
凜花は、頼れる大人にも出会えず、ただ耐えるしかなかった。


不幸中の幸いだったのは、施設でも学校でも暴力は振るわれなかったことである。
仲のいい友人はできなかったし、施設では冷たくあしらわれ、クラスでもいない者として扱われたこともあったが、施設を出る日を夢見てじっと耐え続けた。


だから、優しくしてくれる茗子と出会ったときには、とても嬉しかった。
それだけに、彼女の態度にはひどく傷ついた。


確かに、自分が面倒を見ていた後輩を理由に振られれば、いい気はしないだろう。
プライドは傷つき、苛立ちだって芽生えるに違いない。
ましてや、凜花は茗子のように美人でもなく、取り立てて秀でた部分もない。
仕事では無遅刻無欠勤だが、そんなものは特に自慢できる話でもない。
彼女にしてみれば、なにもかもに納得できなかったに違いない。


凜花は一度だけ謝ったが、その翌日には制服が破かれていたため、二度と謝罪の言葉を口にしようとは思わなくなり、茗子との和解は諦めた。
施設にいたときは、社会に出れば今よりも少しはマシな環境になると思っていた。
大人になってからさらに環境が悪化することになるとは思わなかったが、どこにでも幼稚で醜い人間はいるものなのだ……と学んだ。


茗子には、いつも取り巻きがいる。所長を始めとした上司も彼女をとても気に入っており、凜花の味方をしようという人間はいなかった。
なぜ凜花のロッカーの鍵を茗子が開けられたのかは、仕事を辞めると話をしに行った日の玄信の言動でわかった。
彼女が上手く言いくるめ、所長から借りたのだろう。
制服の話をしたときも、あの更衣室で騒ぎがあった日も、所長の顔色が変わった理由はそういうことだったのだ。


ただ、自分にひとりも味方がいなかったのは、環境のせいだけとは言えない。
凜花自身がなにかにつけて諦め、人間関係を構築してこなかったせいでもあると、心のどこかではわかっていた。
耐えるだけだった過去の振る舞いが、社会人になってから自身をより苦しめるなんて思いもしなかったが、自分にも非はあったのだろう――。