「うん。使命に生きていただけの私が、ももんといた時のように、誰かと一緒に過ごすことは楽しいんだって思い出せた。花が可愛いことを思い出した。皮肉にもこの足が私をここまで運んでくれた。全部いずもが連れ出してくれてなかったら忘れて死んでた世界なんだよ。
 だから、ありがとう」

 柔らかな手が私の両手を包み込み、可愛い顔がふんわりと花開くように笑みを浮かべる。
 私は頭を振り、こちらこそ、と返す。

「海があんなに綺麗だとは思わなかった。知らない地球を見せてくれたのはももんもだよ。ありがとう」

 ふふふ、と笑い声が返ってくる。嬉しそうな声に私は安堵を覚える。

 彼女が、どうして今更これを話したのかは分からない。私はこいるが好きで、彼の言っていたことも本当で、けれど好きな人に真実を教えようとは思わなかった。

 それは、彼女の瞳には確固たる意志が存在していて、それが誓い、というものなら壊すことは出来ないと思ったのもある。
 けれど、きっと、そうではなくて。海から出られた彼女は、使命から出られた人魚は、ただの人間として私とここにいてくれている。

 友達だから。本当のことを話してくれた。そう思っても、いいかな。
 居心地のいい空気が答えのような気がした。