「疲れたんだろ? ここ、座るところもないし」
「いや、そんな……」
「いいから乗れって」

 疲労もあるが、羞恥心もある。けれどその怒気に私は当てられ、思わず彼の肩に手をかけ、飛び乗った。

「よし、いい子だ」

 嬉しそうな声が、くっついた彼の背中と私の胸に振動する。あまりにも穏やかな声と、そういえば男性にこれほど近付いたことがない免疫のなさが顔を赤くする。

「走るぞ! あいつに追いつく!」

 号令を皮切りに走り出す。風に置いていかれないように硬い肩にぎゅっと捕まる。
 すごい。こんなに早く走ったことがない。元々野良狐だから早いのか。のろのろと走る元々人魚にあっという間に追いつきそう。

「早いね! こいるっ」
「当たり前だろっ」

 ほら見ろ、と言われてひまわりに視線を向ける。燃え尽きた赤い太陽が、小さな太陽の花の僅かな灯火を燃やす。綺麗なんて言葉よりも、もっと……幻想的で、悲しいのに、気力が湧く。

 お母さん。私、今楽しいみたい。綺麗だと思えるみたい。私も、一人の人間だったんだね。

 ついにももんに追いつく。追い越された彼女は私の背中に飛び乗り、支えきれなくて倒れ込む。笑い声が弾け、二人の間に挟まれる居心地の良さを覚えた。