「急にお呼びたてしてしまいまして、申し訳ありませんでした」
「かまわないさ。気遣いは無用だ」
今日の天明の様子は、先日の無礼さが嘘のように貴族然とした態度だ。それならそれで、紅華も普通の皇族と同じように対応することができる。
(やっぱり第二皇子なだけあるわよね)
紅華が感心していると、天明はにやりと笑った。
「こんなに素敵なお嬢さんのお相手なら、何を置いても最優先で遂行するよ」
(前言撤回)
「それに……俺も、ちゃんと父上に挨拶はしておきたいし」
睡蓮は納得したようにうなずいたが、紅華は首をかしげる。
天明は、紅華と違って密葬にも参列しているはずだ。その時にきちんとお別れをしたはずではないだろうか。
その疑問が顔に出ていたのだろう。天明が苦笑しながら言った。
「ああいう堅苦しい儀式が苦手でね。すっぽかした」
「え?! なんてことするんですか!! 皇帝陛下の葬儀ですよ?!」
紅華すらも、正式な妃ではないからと出席の許されなかった式だ。それを苦手だからといってすっぽかすとは。
「だよな。俺もそう思う。だからやっぱり、真面目に挨拶をしてこようと思ってね」
「当然です。ご一緒に行って、亡き陛下に心から謝ってください」
「厳しいなあ」
「天明様がおかしいんです!」
ぷりぷり怒りながらも、紅華は仕度を着替えるために隣の部屋に入った。用意を終えて戻ってきた紅華は、思わず言葉を失った。
(え…なに、ソレ)
待っていた天明は頭全体を覆う覆面を被っている。顔が見えなくなるので、紅華の実家にあやしげなものを買いに来る貴族がよくかぶっていたものだ。
またぞろ文句を言おうとして、ふと気が付いた。
(あ、そっか。私がまだ正式な貴妃じゃないから、お忍び扱いってことなのね)
ましてや天明は第二皇子だ。夫の晴明を差し置いて別の皇子と出かけるのは、あまり外聞がよくないのだろう。
そう考えると、いらぬ支度をさせた天明に少しばかり申し訳ない気になって、紅華は頭を下げた。
「お待たせいたしました。よろしくお願いいたします」
「じゃ、行こうか」
そうして連れ立って、紅華たちは陵、つまり皇帝の墓へと出かけた。
☆
宮城からしばらく馬車に乗ると、小高い丘が見えてきた。
「あれですか」
「ああ。代々の皇帝が眠る陵だ」
それは、少し高い丘の上にあった。綺麗に整備された階段は、見上げるほどにながい。輿に乗っていくという手段もあったが、紅華は自分の足で歩くことを選んだ。
入り口を守る近衛に身分を告げて、紅華たちは汗をぬぐいながらそこを登り始める。
「おっと。大丈夫か?」
足元のふらついた睡蓮を、天明が支えた。そのまま支え続けようとすると、睡蓮がその手を押し返して首を振る。
「私は大丈夫です。それより、紅華様をよろしくお願いいたします」
天明は紅華を振り返る。
「紅華殿は大丈夫か?」
「足には自信があります。商人にとって俊敏さは大事な要素ですから」
「だってさ、女官長。貴妃に負けていたら立場がないぞ。がんばれよ」
「天明様は平気そうですね」
覆面をしているのに、息を乱している様子もない。紅華たちと違って男であるということを差し引いても、かなりの体力があるようだ。
「これくらいで息があがるほどやわじゃないさ」
紅華の考えを裏付けるように、天明が言った。
「天明様はともかく、先ほどの陛下の顔色はあまりよくありませんでした。ちゃんと、お食事を召し上がっておられるようですか?」
そう聞いたのは睡蓮だ。その顔を見れば、彼女が心から晴明を心配しているのがわかる。
「かまわないさ。気遣いは無用だ」
今日の天明の様子は、先日の無礼さが嘘のように貴族然とした態度だ。それならそれで、紅華も普通の皇族と同じように対応することができる。
(やっぱり第二皇子なだけあるわよね)
紅華が感心していると、天明はにやりと笑った。
「こんなに素敵なお嬢さんのお相手なら、何を置いても最優先で遂行するよ」
(前言撤回)
「それに……俺も、ちゃんと父上に挨拶はしておきたいし」
睡蓮は納得したようにうなずいたが、紅華は首をかしげる。
天明は、紅華と違って密葬にも参列しているはずだ。その時にきちんとお別れをしたはずではないだろうか。
その疑問が顔に出ていたのだろう。天明が苦笑しながら言った。
「ああいう堅苦しい儀式が苦手でね。すっぽかした」
「え?! なんてことするんですか!! 皇帝陛下の葬儀ですよ?!」
紅華すらも、正式な妃ではないからと出席の許されなかった式だ。それを苦手だからといってすっぽかすとは。
「だよな。俺もそう思う。だからやっぱり、真面目に挨拶をしてこようと思ってね」
「当然です。ご一緒に行って、亡き陛下に心から謝ってください」
「厳しいなあ」
「天明様がおかしいんです!」
ぷりぷり怒りながらも、紅華は仕度を着替えるために隣の部屋に入った。用意を終えて戻ってきた紅華は、思わず言葉を失った。
(え…なに、ソレ)
待っていた天明は頭全体を覆う覆面を被っている。顔が見えなくなるので、紅華の実家にあやしげなものを買いに来る貴族がよくかぶっていたものだ。
またぞろ文句を言おうとして、ふと気が付いた。
(あ、そっか。私がまだ正式な貴妃じゃないから、お忍び扱いってことなのね)
ましてや天明は第二皇子だ。夫の晴明を差し置いて別の皇子と出かけるのは、あまり外聞がよくないのだろう。
そう考えると、いらぬ支度をさせた天明に少しばかり申し訳ない気になって、紅華は頭を下げた。
「お待たせいたしました。よろしくお願いいたします」
「じゃ、行こうか」
そうして連れ立って、紅華たちは陵、つまり皇帝の墓へと出かけた。
☆
宮城からしばらく馬車に乗ると、小高い丘が見えてきた。
「あれですか」
「ああ。代々の皇帝が眠る陵だ」
それは、少し高い丘の上にあった。綺麗に整備された階段は、見上げるほどにながい。輿に乗っていくという手段もあったが、紅華は自分の足で歩くことを選んだ。
入り口を守る近衛に身分を告げて、紅華たちは汗をぬぐいながらそこを登り始める。
「おっと。大丈夫か?」
足元のふらついた睡蓮を、天明が支えた。そのまま支え続けようとすると、睡蓮がその手を押し返して首を振る。
「私は大丈夫です。それより、紅華様をよろしくお願いいたします」
天明は紅華を振り返る。
「紅華殿は大丈夫か?」
「足には自信があります。商人にとって俊敏さは大事な要素ですから」
「だってさ、女官長。貴妃に負けていたら立場がないぞ。がんばれよ」
「天明様は平気そうですね」
覆面をしているのに、息を乱している様子もない。紅華たちと違って男であるということを差し引いても、かなりの体力があるようだ。
「これくらいで息があがるほどやわじゃないさ」
紅華の考えを裏付けるように、天明が言った。
「天明様はともかく、先ほどの陛下の顔色はあまりよくありませんでした。ちゃんと、お食事を召し上がっておられるようですか?」
そう聞いたのは睡蓮だ。その顔を見れば、彼女が心から晴明を心配しているのがわかる。