ゼミの教授に、意欲的に取り組んでいる姿勢を評価されて、留学してみてはどうかと薦められた。
 好きな分野で認められたことがすごく嬉しくて、本当はすぐに頷きたかった。
 ――君が、いなければ。

 その日の夜に行われた高校の同窓会の帰り道に、君が友人に茶化された話を聞いて、ちょっとした優越感に浸る。
 君は気づいていないだけで嫉妬深いんだよ、と言いかけて止めた。

 君にとって私との関係は、周りに流されて仕方なく付き合ったことに変わりはない。
 手を伸ばせば繋げるこの距離が愛しいのに、明日にはいなくなってしまうんじゃないか。

 明日には、君の隣にいるのが別の人になっているんじゃないか。

「……あのさ」
「んー?」
 私は君に「好き」だと伝えたことがあるだろうか。
 一緒にいることが当たり前で、小さな喧嘩もして思っていることを言い合ったこともあるけれど、これだけはお互いに聞いたことがないような気がした。
「……やっぱり、なんでもない」
 君は何かを言いかけて止めた。正直ホッとした自分が嫌になる。