高校2年生はクラスの半分ほどしか部活動に参加していない。放課後の生徒たちの半分が部活動に行き、残りの半分はそのまま帰宅し塾に行ったり家でゲームをしたりしていた。
 啓は授業が終わると園芸部の部室に急いだ。部室は運動場の脇の建物の1階の隅にある。園芸部は文化部でありながら土いじりをする関係で、運動部の部室の並びの一番端を当てがわれていた。昔は運動場で使用する道具入れだったような場所だったが、プレハブの道具置き場ができ、空いたその部屋を園芸部が使うことになった。部室の真ん中に折りたたみの長机が2枚あり、パイプ椅子が6脚、そして壁際には数十年前からあるような木の棚にバケツやスコップ、ジョウロにホース、軍手などの園芸道具がおかれ、一番下の段には花の土が積まれている。テーブルの上には花の本や園芸ショップの花のカタログが広げられていた。学校の中には花壇が所々にあり、それらは全て園芸部の部員が担当を決めて管理している。
 啓はバケツにハサミやスコップを入れ、ジョウロを持って部室を出ると、自分の担当の場所へと急ぐ。啓の担当場所は正門の校舎向かって右側の花壇だった。左側の花壇は3年生の女子の先輩が担当していた。
 啓はここでパンジーの手入れをしていく。枯れた花を摘み、雑草を引く。花は愛情を持って接すればそれに応えるように綺麗な花をつけてくれる。入学式用に植えたパンジーが花盛りで啓は自分の花壇に満足していた。この花壇を少しでも長持ちさせようと手を抜かずに作業をする。作業は下を向いて行うため同じクラスの生徒が通ってもここに啓がいることには気がつかず、啓もクラスメイトが通っても顔を上げることがなかったので、誰が通ったかも分からない。挨拶をしなければ、挨拶をされることもない。それは啓にはとても都合がよかった。
 啓のそばを通って生徒達が帰っていく。