私は夢花のことをぐるぐると考えながら、その日を過ごした。

 そして、あっという間に時は過ぎ、大晦日当日になった。
 今年も出雲大社は人で溢れかえっている。初詣の参拝者人数は毎年六十万人にもさかのぼるらしい。
 あれから夢花は塾が忙しいという理由で家に遊びに来なくなり、今日会うのはかなり久々。だから少しだけ、緊張している。
 現在は夜の二十一時。一年で一回、夜更かしが許される日だ。大人も学生も皆入り混じって、屋台のご飯や出しものを楽しんでいる。
「夢花ちゃん、もう高校の受験勉強始めたみたいね」
「そうなんだ」
 ダウンジャケットを着こんだ母親が、息を白くさせながら話しかけてきた。父親は仕事がまだ終わらず、途中参加で来るらしい。
 ……塾が忙しいというのは、本当だったんだ。
 嘘ではないことにほっとしていると、夢花と夢花のお母さんが人ごみの奥に見えた。
「大崎(おおさき)さん、こっちです!」
「白石さん、どうもお待たせいたしました」
 夢花のお母さんが、ぺこっと頭を下げる。
 ワンレンのロングヘアが印象的な、とても気品漂うお母さんで、夢花の整った顔はお母さん譲りなんだとつくづく実感する。
 家族ぐるみの付き合いになったきっかけは、夢花のお父さんとうちの父親が仕事上で知り合ったから。同い年で同じ小学校に入学する娘がお互いにいると知った父親たちは意気投合し、家族ぐるみの付き合いになった……という経緯だ。
 隣にいる夢花はいつもと変わらぬ様子で、ベージュのダッフルコートに身を包み、「久しぶり」と微笑んでいる。
「久しぶり。屋台沢山回ろうね」
「うん、粋、最近遊びに行けなくてごめんね」
「もう高校受験勉強してるなんて焦るよー。まあ、今日は勉強忘れて楽しもう。行こっ」
 母親に屋台を回ってくることを告げて、私は夢花の手を取り人ごみの中を縫った。
「一時間後には駐車場に戻ってくるのよー」
「分かってるー!」
 振り返らずに母親の声に返事をして、私たちはどんどん前に進んだ。
 人形焼きに、焼きそばに、チョコバナナ……。
 甘い香りに、ソースの香り、人々の笑い声、屋台の明るい光、遠くから聞こえる太鼓の音。
 あちこち迷っている余裕はないので、ひとまず私達はクレープ屋に並んでクレープを頼んだ。
 夢花はチョコバナナクレープで、私は苺のクレープ。