真っ白な病室に、白石の凛とした声が響く。
 思ってもみない言葉に、俺はただ茫然とすることしかできない。
 白石は俺から一ミリも視線をずらさずに、真剣な表情のまま話を続ける。
「赤沢君がそんな考えで生きてたら、赤沢君を大切に思ってる人は……、いったいどうすればいいの」
「え……」
「死んじゃったら、もう二度と赤沢君として出会うことはできないんでしょう。同じ人はもう二度と生まれないんでしょう?」
 そこまで言葉を連ねると、白石はすーっと息を吸い込む。
 そして、ずっと何も言えずにいる俺の服の端を、ぐっと握りしめてきた。
「もう二度と無茶しないで。いなくなったら怖いと思うくらいには、私は赤沢君を、ちゃんと大切に思ってるよ」
 白石の言葉を聞いて、自分の感情の中に、新しい扉がいくつもできていくような感覚に陥った。
 今まであまりに自分の命を軽んじてきたけど、それはすごく自分勝手な行動だったのだろうか。
 自分のことを大切に思ってくれてる人のことなんか、一切、考えてこなかった。
 だって、俺の人生は、いくらでも〝やり直し〟がきいてしまうものだから。
 そんな、呪われた能力を……持っているから。
「ごめん……」
 そっと、白石の背中に手を回し、落ち着かせるように撫でる。
 人生で初めて抱いた感情の連続で、言葉がまとまらない。
 どうして白石は、人の心を動かす言葉を、持っているんだろう。
 たしかに、もしここで死んでしまったら、二度と赤沢八雲として白石と出会うことはできないのだ。
 そんな世界は、まだ想像したくないと、思ってしまった。
 怒りや不安が生みだした涙が、白石の瞳からいよいよ零れ落ちそうになった瞬間、彼女はグッと上を向いて、乱暴にそれを拭った。
「……未練、そういえばもうひとつある」
 ずっとはなを啜ってから、若干ムスッとした声でぶっきらぼうに言い放つ白石。
 俺は思わず「え、今?」と動揺の声をあげる。
「心配させた罰だよ」
 白石は眉をピクリとも動かさずに、そう言い切った。
 本来俺からの願いごとのはずなのに、いつの間に罰ゲームに変換されていたのだろうか。 色々とツッコミどころはあるが、俺は白石の言葉を待つ。
「手を……繋いでみたい」
「え……?」
 意外な願いに戸惑い、俺は数秒停止する。
 しかし白石は、「はい」と言って俺の前に手を差しだしてきた。