えりなのフォローに全乗っかりする祥子にも、つらつらと顔色ひとつ変えずに言い訳をできるえりなにも、どっちにも心底呆れた。
 私はそれ以上何かを言い合う気にもなれず、「そっか、なら安心した」と一言返す。
「天音待たせてるから、私先に行くね。グループワークの時にまた合流しよう」
 これ以上この場にいたくなくて、私は早口でそう言い残して二人の前から去った。
 足は自然と早歩きになっていて、足音に自分の怒りが混じっている。
 天音が明らかに見下されているのに、強く発言できなかった自分が、情けなくて仕方ない。
 ううん、こんなこと、今回が初めてのことじゃない。私は何度もこの問題をスルーしてきた。
 あの二人のことは完全に切って、天音と二人で過ごせばいいだけなのに、二人を敵に回すことがどこかで怖いと思っている。
 私は何て、中途半端な人間なんだろう。
 潔い強さと優しさを持った、天音や夢花のような人間には、私は絶対になれない。
 彼女たちのような人間が羨ましくて、眩しくて仕方がない。
『自分の状況を変えるのは、いつも〝本当〟だけだ』
 赤沢君に言われた言葉が、胸に沁みる。
 その通りだ。私が本心を打ち明けてこなかったから、これからも嘘が増えていくんだ。
 私なんかが、えりな達に偉そうに言う資格はない。
 今さら、世界なんて、変えられっこない。
 それに、もう残り少ない命だ。何かを変えたって、意味はないし。
 そうだ。私が何を言っても、どうせもう遅いのだから。
「おい、白石」
 集団の中に戻ろうと、下を向いて早歩きをしていると、突然誰かに手首を掴まれた。
 驚き顔を上げると、そこにいたのは赤沢君だった。
 なぜか彼は、心配したような瞳を私に向けている。
「どうした、白石」
「え……、何が? 赤沢君こそ何、急に……」
「泣いてる」
 赤沢君の指がそっと頬に触れて、私はビクッと肩を震わせた。
 泣いてる……? 私が……?
 信じられない気持ちで自分でも頬に触れると、すぐに指先が濡れた。
「あれ……?」
 心では割り切ったつもりでいたのに、体は正直だ。
 醜い自己嫌悪がそのまま涙となって、頬を伝っていく。
「ごめん、花粉かな……? 秋のほうが私、弱くて」
「白石……」
 しまった、いくら何でも言い訳が下手すぎた。