白石は言ってこないけれど、恐らく彼女とやり残したことを思いだしながら、消化しているんだろう。
 不毛な行為にも思えるけれど、俺はそれを静かに見届けてあげたいと思った。

「ではここから各自班で自由行動になるが、時間厳守で行動するように」
 新幹線で京都駅に到着した俺たちは、教師の指示で自由行動することになった。
 京都市内であればどこへ行ってもOKというルールで、十七時には宿へ戻るスケジュールとなっている。
 修学旅行は三泊四日になっており、今日は二日目。フルで自由行動に使える日だ。
 正直、京都の修学旅行はすでに何回か経験しているから、心底飽きている。住んでいたこともあるし。
 けれど、同じチームのメンバーは、もちろん京都の修学旅行は初めての経験だ。
 生徒は皆目をキラキラ輝かせて、小走りでバスや駅に向かい始めた。
「えーと、伏見稲荷は最後にして、清水寺行って三十三間堂目指す感じだっけ……?」
「そうだな。京都市営バスを使って行こう。こっちだったはず」
 アプリを見て頭を悩ませている秦野に、バス停の場所を指示した。
 自由行動は私服だけど、秦野は白のロングTシャツに黒いジャンパースタイルという、普段の運動着とさほど印象が変わらない格好をしている。
 須藤(すどう)天音は花柄のベージュのワンピースに白いコートで、白石はゆるっとした薄手のニットに細身のパンツを合わせている。
 白石の格好と自分の格好が似ていたので、朝集合した時に結構嫌な顔をされた。
「赤沢君と粋、カップルコーデみたいだね」
 須藤が空気を読まない発言をしたせいで、白石は心底げんなりした反応を見せる。
 確かに、俺のニットの色が濃いグレー、白石のニットの色がラベンダー色というだけで、スニーカーのブランドは一緒で、パンツの形まで似ている。さらに、羽織っているコートの形まで。
「ちょっと、やめてよ天音……。やっぱり着替えてこようかな」
「えっ、ごめんごめん! 純粋に思ったこと言っただけで、別に私は気にならないよ!」
「純粋に思ったんだ……」
 墓穴を掘りまくる須藤に、我慢していた笑いがふっとこぼれる。
 笑っている俺に気づいた白石が、「赤沢君だって恥ずかしくて嫌でしょ」と睨みつけてくる。
「まあまあ、時間も限られてるし、楽しもうぜ」
 珍しく良いことを言った秦野が、バス停まで俺たちを手招きしている。