あの時の夢花の気持ちが知りたい。ただそれだけで。
 夢花はいったい、どんなことを私に電話で話したかったのだろう。面と向かっては伝えられないことが、あったのかな。
 メッセージアプリから赤沢君を探し、通話ボタンを押してみる。
 誰かに自分から電話をかけたことなんて、本当に数年ぶりのことだ。
 二コール、三コールと続いて、私は半分以上出ないだろうという気持ちでいた。
『……はい』
 しかし、予想を裏切り、寝起きのように少し掠れた声が鼓膜を震えさせた。
 全く話すことを考えていなかった私は、数秒フリーズしてしまう。
『もしもし? 白石?』
「あ、赤沢……君?」
『そうだけど。何? どうした?』
 どうした?という一言が、思ったよりも優しくて、私はますます追いつめられていく。
 電話だと、ものすごく声が近く感じる。見えないのに、そばにいるみたいだ。
 今どんな部屋にいるんだろうとか、どんな恰好をしているんだろうとか、何をしていた最中だったのかなとか、そんな考えがぐるぐると脳内を駆け巡る。
「ごめん。急に未練思いついて……」
『え、こんな夜中に? さすがに今は外出られないけど』
「ううん、今実行できてる。電話することが、未練だったから……」
『は? 電話が?』
 思い切り電話口で顔を顰めているのが想像できて、少し気まずくなる。
 たしかに、いきなり聞かされてもどういうこと?となるのは当然だ。
 私は空気に耐えられなくなり、「急に意味わからないこと言ってごめん!」と言って切ろうとした。
『いいよ。じゃあ、何話す?』
「え……」
 しかし、終了ボタンを押そうとした私に、赤沢君は問いかけてきた。
 戸惑いつつも、再びスマホを耳に近づける。
『あ、スピーカーにしていい? 作業してるから』
「う、うん、全然いいよ。私もまだ荷造り中で……」
『自由時間の私服、かさ張ってだるいんだけど』
 あまりに自然と会話を続ける赤沢君に、私はおろおろするばかり。
 この前のパフェの時もそうだけど、赤沢君はとても適応力が高い。すぐに切り替えてくれるというか……。
 そういう部分も、人生経験が豊富なお陰なんだろうか。それとも、赤沢君の性格なのだろうか。
「赤沢君は……、強烈に覚えてる人生とか、ある?」
 自然と、いつか聞いてみたいと思っていた質問がこぼれ落ちた。