そしていつも、裏の顔を隠したほかの国々から使者がやってきたように、この国には跡継ぎがいないので、姫君と結婚すればこの国の王様になることができるのでした。だから、皇帝が言うことも間違いではないのです。皇帝が姫君と結婚すれば、この国は皇帝のもののまま、姫君のもののままであることができます。
 しかしながら皇帝はもともと、姫君に結婚を申し込みに来たのではなく、戦争によって強引にこの国を従えに来たのでした。この国はすでに、姫君と結婚する必要もなく勝った皇帝のものでした。戦争に負けた国の王族が、勝った国の王様と結婚するのも珍しいことではありませんでしたが、それは負けた国の人達に言うことを聞かせるため、形ばかりの結婚をしてその国の王様になることでした。今は、姫君の国の人々も大臣たちも、皇帝に逆らう様子はまったくなく、逆らえるだけの力などありません。だから、皇帝がそういう方法をとる必要はないのです。
 それなのに、皇帝はにっこりと笑いながら、はっきり言いました。
「結婚してほしい」
 皇帝のせいで国は乱され、王様もお妃様もいなくなってしまいました。ですが、たとえ皇帝が荒らさなくてもいつも他の国に狙われていたこの小さな国は、いつかこうやって誰かに踏みにじられていたことでしょう。
 姫君は、自分で言った様に、人よりも良い耳を持っていました。そして人よりも感じやすい心を持っていました。他の人が感じ取るよりも鋭く深く、人の心をその声から聞き取り、察することができました。そして、目の見えない自分だけでは、この国を幸せにすることが難しいことを知っていました。
 皇帝は決して意地の悪い人ではなく、むしろとても率直で裏のない人だと分かっていました。だからこそわがままで自信があって、とても強いのです。王様とお妃様を奪った憎しみと悲しみを取り除けば、好ましい人であるのが分かっていました。
「わたくしがそうすることで、あなたがこの国を幸せにしてくださると言うのなら」
 少しあきらめたように、そして少しおかしそうに、姫君は言いました。実際、皇帝のこの願いはとてもおかしなものでしたから。
 そうして小さな国の姫君は、強大な帝国の皇帝と結婚することになりました。