それはやはり、周りの国々から見れば、大きな弱みに見えました。人々は、姫君が他の国の王子様と結婚して国を治めても、その王子様の国にこの国を乗っ取られてしまわずにいられるか、不安に思いました。そうすればたとえ戦争をおこさなくても、その国を手に入れる事が出来ます。ただでさえ、まわりの国々はいつも相手の隙をうかがい、争いをして土地を奪い合っているのです。
 姫君が幼い少女の頃から、人の良い顔をしたたくさんの使者が、裏の顔を隠してやってきました。
 王様は、その誘いを全部、丁寧に断り続けました。
 そういった事情を抜きにしても、王様や国の人々にとって、姫君は大切な宝だったのです。
 姫君は美しい声を持っていました。
 姫君は、美しい言葉で、歌うことができました。誰に教えられるわけでもなく、心の内から湧き起こる音色で、優しく人々に歌って聞かせました。姫君が歌うと、大きな庭に放された動物たちも顔を見せ、人々も穏やかな気持ちになることが出来ました。
 王様は、たくさんの不安を持っていましたが、姫君をとても大切にしていました。


 そうして長い年月が過ぎました。
 姫君は美しい乙女に成長していました。周りの国々の争いは大きくなり、若い皇帝が治める帝国が、どんどん他の国々を飲み込んでいました。
 姫君の住まう国にもその手が伸びてきて、年老いた王様も戦争へ出かけていきました。
 けれど若い皇帝が率いる軍隊は強く勢いがあり、とても数が多く、王様たちでは止めることが出来ませんでした。王様は戦争の途中で兵隊に殺されてしまいました。王様を失った軍は戦うことが出来ず、戦争は帝国が簡単に勝利し、姫君の国は帝国の一部にされてしまったのです。
 皇帝がお城へ来るよりも早く、王様が亡くなった知らせを受けた王妃様は悲しみ、寝込んでしまいました。王様と同じように年老いていた王妃様は深い悲しみに耐えられず、ベッドに伏したまま、二度と元気な姿を見せることはありませんでした。