「本当、ごめん?」
 ついっと顔をそらして、輝月は眉をしかめた。
 夏休みなので、蝉の声の中真昼間に、家の玄関から堂々と今光源氏は来た。
 両親はずいぶん驚いていたけど、勉強を教えにきてくれたんだって説明したら、喜びに喜んで、キンキンに冷えた飲み物とクッキーを出してくれた。
 夜じゃないけど、今日も千夜通いにカウントするらしく、いつも通りカレンダーに数字を書き込んで、それから今に至る。
「いいって。別に、怒ってないし」
「ほら、怒ってるじゃん。ねえ、ごめん。ちょっと楽しくなっちゃって」
 別に、いい。必死に謝る今光源氏に、輝月はため息をついた。
 楽しい。そう思えるなんて、羨ましい。
 知ってる。わかってる。あのノリについていけず輪から外される自分から逃げたんだってこと。だからもう、放っておいてほしい。
 ねえ、せっかく逃げ出したのに、また惨めの淵に突き落とすの?
「お詫びにさ、そう、今日は誘いに来たの」
「もういいって」
「夏祭り。一週間後の。一緒に行こう? 十回目記念とかで花火、いつもより大きいんだって」
 いつもって、初めてのくせに。胸を張って自慢げにポスターを突き出してきて、つい苦笑がもれる。それから、違う、と思い直した。
 断ってるのに。なんでこんなに図太いの?
「次は、二人で」
 二人で。かっと顔が熱くなる。そんな、まかり違ってもデートみたいな・・・・・・こと、できるわけ、ない。
「だから、お願いっ」
 この人は、なんでこんなにいつも必死なんだろう。
 ぱんっと合掌して、土下座までしそうな勢いの今光源氏に、海水浴の前に感じた疑問が、また、むくむくと湧き始める。
 その気持ちが暴走したのか、知らず知らず、首は動いていた。
「わかった」
 消え入りそうな声で答えてから、我に返った輝月は焦った。なに言ってんの、私!
「本当? やったー!」
「うっ、うん、うん、だから。それだけ? 話」
「うん。あ。でも、勉強。一応教えるよ。課題、終わってないでしょ。全然」
 確かに、なにがなんでも帰すのは早い気がした。納得はするけど、嫌なところを的確に突かれて、ちょっといらっとする。
 そうだよ、一問も終わってないけど、なにか!