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「・・・・・・お願いします」
「Hの三ですね」
 映画館風乗車券は、使い回し可らしい。二重に押されたスタンプを見て、ふっと笑えてくる。
「来た、姫。ごめんね、長い間ほったらかしてて」
 三日経ち、月に帰ってまた地上へおりてきたのにまだリメイクされたままの待宵号の、Hの四に座りながら翔琉がため息をつく。
「ううん、いいんだけど。どういうこと? 事情が変わったって」
「弟が生まれた。俺が次期東宮である必要はなくなったし、ある程度の自由も与えられた」
「じゃなくて。翔馬ってクソガキは」
「クソガキって・・・・・・同い年だけどね?」
 つるっと口がすべって、クソガキの双子の兄に、苦笑をこぼされた。
「間違えた。キザ野郎、カッコつけたがりで中二病のあの男子」
 まだ怒りが収まらない。翔琉にまあまあとなだめられ、ようやく口を閉じた。
 今日は塩味! と大きな笑みで見せてくれた、翔琉の膝上のポップコーンを一つ奪い、口に入れながら聞く。
「で、なんで?」
「八宵が」
 八宵?
「訴えてくれてたんだ。翔馬の行動全部を」
「ウソでしょ?」
 信じられない。あの子が? あの・・・・・・あの、八宵が?
 驚きが露骨に顔に出過ぎたのか、翔琉が呆れた顔になった。
「本当。八宵だって人間だから、根も歯もない真っ赤な嘘で平静さをなくして、人を傷つけたのが辛かったんだと思う」
「そっか・・・・・・そうだよね」
 悪いことをしたという自覚はあるのだ。少し、救われた気がした。
 発車いたしますとアナウンスの声がかかり、バスが軽いエンジン音を立てて走り出す。
「俺は地上に移住する。大学にも通う。今からだったら遅いから、一浪だけど」
「いいじゃん。やりたいことは見つかったの?」
 まさか、この前の言葉は本気で、輝月のヒモになるわけではないだろう。
「んん・・・・・・まあ、大学通いながら見つけるよ」
 信じられないほど気楽だけど、そこが翔琉らしいとも言える。
「ふうん」
「まあ、まず帰ったらゆっくりしよう。また商店街でショッピングしてもいいし。それから、八宵にも会ったらいいと思うよ。申し訳ないって言ってたし、一緒に行こう」
 後半に述べられたそれには正直あんまり気が乗らない。いじめっ子が、反省したふりをしてまたいじめるなんてよくある話すぎる。まだ疑いが完全に抜け切らない輝月だが、翔琉がついてきてくれるんならまあいいやと思い直し、輝月は素直にうなずいた。