かぐや姫、ときどきシンデレラ

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「え? ストーカー? ストーカーって、あの?」
 翔琉が驚いている。
「あのストーカーが、俺だって?」
「うん、そうだって。知ってた?」
「いや、俺ストーカーじゃないし、濡れ衣だよねそれ。え、否定してくれた?」
 その人についてまわっている噂をわざわざ吹き込むバカはいないようだ、翔琉はストーカー説を知らなかった。
「するわけないじゃん。身から出た錆でしょ。しかも、じゃあなんでって聞き返されたら困る。関係深堀りされるのやだし。ま、ひとまずここはあんたをストーカーに仕立て上げとく」
 月の話を地上の人々の前でするのは御法度。耳がタコで詰まるほど何度も言い聞かされているので心得ているが、これがなかなかに辛い。
「え〜・・・・・・」
「いいじゃん。勉強はできるし女の子はいっぱい寄ってくるんだし、不足はないでしょ」
「ないことないけど」
 拗ねたような顔でそっぽを向く。それからふと思い出したように、一転して笑顔になった。
「ね、映画行ってみようよ。映画」
「は? なんで?」
 いきなりすぎるでしょ、さすがに。すると、翔琉は駄々っ子のような表情になってさらに重ねた。机でも叩いて、地団駄を踏みそうな勢いだ。
「いーじゃん!」
 あ〜はいはい、わかった。
「興味本位ね」
「・・・・・・ね、行こうよ」
 うっと言葉に詰まってから、それでも折れずにまだ言う。
 しかし正直、今は翔琉に弱い。一番の被害者である翔琉自身は何事もなかったように接してくれているけど、かえってそれが、加害した輝月を苦しめていた。
「ま、いいよ」
 とそんな次第で。
「すごいいい匂いする・・・・・・」
 二人は、映画館へやってきたのだった。久しぶりに鼻先に漂うポップコーンの匂いに、輝月のテンションが上がる。
 朝日たちとはショッピングに行ったりお互いの家を行き来したりはしている中で、二、三度映画を見に行ったことがある。麦の推し俳優さんを見に行ったのだ。麦に視聴後、がーっと感想を述べられて、だけどまあ、正直興味はなかった。
 一方、翔琉は男友達と映画に来たことはなかったのだろう。今居候している家の家族とも来たことがないらしい。映画館は、月の都にはない。つまり人生初。
「ポップコーン買ってみようよ。今日は確か、あれ? なにが上映されてるんだっけ。チケットってあそこだよね? 当日券買わないと」
 しっかり下調べはしてきたらしい。が、気持ちが昂りすぎてやることがまとまっていないようだ、矢継ぎ早にまくしたてるだけまくしたてて、あとは売り場の前でうろうろしている。
 しょうがないなあ、と慣れた輝月が受付へ向かい、内容深めの恋愛映画チケットと、キャラメルポップコーンを買って劇場へと向かった。
「ポップコーンって美味しいのかな」
「座ったら食べてみなよ」
 子供みたいに顔を輝かせて言う翔琉に、輝月は苦笑で応じる。
「Hの三と四・・・・・・ここだね、席。四どうぞ」
「ありがとう」
「あ、始まるまで結構予告があるけど、そこからもういちいち声上げたりしないでよ。静かに楽しみたい人もいるからね」
 翔琉ならやりかねないと思う。おぉ〜とか、すげえとか。頭に思い描けば描くほど、その姿は現実味を増してくるから怖い。
 映画館歴では先輩の輝月に諭されて、そういうものなのかと素直に翔琉はうなずいた。
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「すごかったな・・・・・・」
 鑑賞中に横を見たら、一生懸命口を塞いで言いつけを守ろうとしていた姿が健気に思え、でもその分、今口をぽかんと開け放って歩く姿は間抜けだった。
「いい加減興奮から抜け出しなよ」
「んん・・・・・・お腹空いた」
 呆れ口調でたしなめると、翔琉は深呼吸して、お腹を押さえた。のんびりした物言いに、思わず微笑む。あんなにぽんぽんポップコーン口に放り込んでたのに。
 まあ、しょうがないか。あらかた序盤で箱は空になり、さらに最後の方は涙が体の先端からごっそりかき集めたくらいに出てきたから、ポップコーンどころじゃなかったしなあ。
「カフェにでも行く?」
 ちょっと早いけど、一応おやつどきだ。
 隣に併設されたショッピングモールに二人は入って、カフェの窓側を陣取り軽食を頼む。それからようやく腰を落ち着けた。
 途端に。
「すごかったよね。まず、そもそもストーリーが面白かった」
 から始まり、ものすごい勢いで感想を述べ始めた。脚本、演技、演出、美術。果てはメイクやファッションまでくまなく。
 いかにそれがすごかったか、心に響いてやまなかったかを言葉にする翔琉もすごいが、あの映画はそこまで言われるほどの才能が光ったものだったのも事実だと、輝月は思う。
「前置きなしでもわかりやすかったしさ」
 客の心がどんどん引き込まれていくストーリー構成、そして、惹きつけたら最後、鑑賞後も放さない演出。
「思い出しても泣けるのはすごいよ」
 言いながら、ちょっと涙目になって鼻をすんとすするので、くすりと笑ってしまいつつも同意する。
 きっと大流行するだろうな、あの映画は。なにか賞でも取ってしまうかもしれない、とんでもないものを見たという印象が強い。
「絶対明日学校行ったら広めたい」
 翔琉は大きく息を吐いて、感想を締めくくった。あまりに一気に言いすぎたのか、少々疲れが見える。聞いていたこっちも疲れた。だが、翔琉の言うことは共感できた。
「あ〜、すごかったなぁ」
 高揚感を全て吐き出してしまってもなお、まだうわずった声で言う。だけど、窓から差す太陽の光に輝く翔琉の顔は、とても綺麗で清々しくて。
 翔琉のこんな顔、初めて見たかもしれない。
 輝月は初めて、その顔を作る人々、ひいてはあのように素晴らしい映画を作る人々に、かすかな憧れを抱いた。
「ねえ、輝月さあ、最近なんか悩んでる?」
 いきなり向日葵に聞かれて、輝月は目を瞬いた。心当たりはない。進路の問題は、この前に糸口を見つけ、すっかり片付いたところ。
「ん? そんなことないけど」
 映画を作りたい、と、そんな気持ちは、翔琉がいないと芽生えなかったと思う。
 ふと、差し込むように将来に不安を抱くこともある。そんなときは、背中を押してくれるようにふわりとあのポップコーンの匂いが鼻先に漂う。
「でも、なんかもやもやしてるんじゃない?」
 早いもので、いつの間にか年を越し、バレンタインも過ぎてあと一ヶ月で、高校二年生は終了する。
「えぇ? なにがもやもやするわけ?」
 今日、朝日と向日葵はそれぞれ面談で先生にとられ、先に帰路についた輝月と向日葵は、ゆるゆると歩く。
「さあ・・・・・・あたしは向日葵で、輝月じゃないからわからないけど。最近元気ないじゃん」
 百夜通いの真似事、千夜通いを初めて二年弱。
「マジ? 自覚ないわ」
 月との連絡が絶えてなお、かすかな希望の蔓にすがるように細々と、翔琉は通ってきていた。が、それもあと一年で終わりを告げる。
「まあ、だろうね。そういうのって、意外と自分ではわからないものだから」
 卑怯は承知で、千夜通いを終えても、悪いけど輝月はなんだかんだ言って帰らないと思うし、そうしようと思っていた。
「ふぅん。なにに悩んでるんだろね、私」
 ズルい。姑息だ。わかってる。知ってる。わかった上で、そうする。だけど、なぜだか翔琉にもう来るなと突っぱねることはできなかった。
「ねえ、今日輝月ん家行ってもいい? 勉強教えて」
「ん、わかった」
 ちょうど輝月の家の前に立った向日葵の提案に、自責をやめてうなずく。ちょっと片付けとかなきゃと、一足先に部屋に上がったら、ちんまりと翔琉がいた。
「ええええっ・・・・・・! なんでいるの⁉︎」
 ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って。
 予想外なんだけど。いや、別にいいよ? お早めに通ってくるのは構わないけどさ。けど、今日は例外! 聞いてないぃぃいっ!
「え? いや、今日はなんとなく早く・・・・・・っ、うわっ、なになになに」
「ちょっと外出てて、ああ、違う、ええ、どこがいいの? ダメ、今日はマジで」
 外に押し出そうとしてから、向日葵と鉢合わせすると右往左往してしまう。そうこうしているうちに足音が廊下から聞こえてきた。
 ヤバいヤバいヤバいヤバい、バレる! ドアノブが、小さく音を立てて回る。うわぁあ、いやだっ!
 輝月の健闘虚しく。
「おっ・・・・・・えーっと、月野くん」
 捨て鉢になった輝月の背中に隠された翔琉が、なんの冗談かひょこっと顔をのぞかせ、あっさり自分から見つかった。
「あ、どうも」
 なにをしてんのーっ! ちょっと、え? 気が狂った? 精神科医のお世話になる?
「やっ、向日葵、これはぁ、違う、そういうんじゃなくて」
 へどもどと今から言い訳を考える輝月に、向日葵は呆れたように、でもなぜか面白そうに言った。
「なんで隠そうとするの? いいじゃん。先客?」
「うん、なんだけど。お邪魔みたいだし、また改めて来る」
 翔琉はそう言って背を向け、部屋から出ていく。
「あのね、向日葵、これはそういうことじゃなくて」
「じ・い・し・き・か・じょ〜。別にあたしは輝月が誰と付き合いがあってもからかうつもりも咎めるつもりもないよ」
 咎めるなんて、難しい言葉を使うなぁ。付き合いってなんか語弊あるし。大体、自意識過剰ってなんだよ!
「自意識過剰は、自分大好き星人か、恋してる子。ふんふんふん。で、輝月は後者、と」
 あ〜、完全に遊ばれてる。さっきからかわないって言ったくせに、ウソついた。
「オッケ、呑み込んだ。じゃ、恋愛マスター向日葵が、初心者輝月にテクニックを伝授してあげる」
 呑み込まないでよぉ・・・・・・。
 輝月は見事に向日葵のペースに呑み込まれ、がっくりとうなだれた。
「もう・・・・・・」
「ずばり、聞くけど。月野くんのこと、好き?」
「別に、好きなわけじゃ」
 ほらぁ、もう。ね? でしょ? こうなるじゃん!
「好きでしょ?」
 強い言葉を被せられて、輝月の頑なだった気持ちが緩む。
「好き・・・・・・なの、かなぁ。かもしれない」
「えぇ? その反応だと、恋したことないの? わかんないの? ウソでしょ? ガチ初心者?」
「じ・・・・・・、実は、そうなんだよね」
 孤児院ではほとんど男子と話す余裕がなかったし、地上に降りてから関わった男は養父と翔琉のみだし。こくっと素直にうなずくと、向日葵はますます驚く。
「ええええ! もったいない」
「もったいない?」
 もったいないって、なにが。予想外の言葉が飛び出してきて、輝月は聞き返した。
「恋こそ女子の道じゃん。輝月、めちゃくちゃカワイイのに。絶対人生ソンしてる」
 人生ソンって。そんなに?
「じゃ、向日葵は、好きな人いるの?」
「いるよ。でも、振り向いてくれない。あ、ちなみに月野くんじゃないから安心して?」
 初めて聞いた。・・・・・・なんてそんなこと言ったら、この前みたいに、当たり前だよ言ってないもんって返されてしまうから、口は閉ざしておく。
「だから、さっさと諦めて自分を好きだって言ってくれる人を大切にしようかなあって」
 告白してくれた子のことか。
「でも、本命は諦めたくない。うん、それがあたしの恋だね」
「向日葵の、恋?」
 うん、と向日葵は小さく微笑んでうなずく。いつもの、ちょっと違う次元から物事を言う向日葵ではなく、一人の女子としての寂しげな表情。
 違う一面を目の当たりにして、輝月は少しだけ、驚いた。
「恋は人それぞれだからね。片想い、両想い、重たい恋、軽い恋。メンヘラちゃんもいるし、ツンデレくんもいる。相手に無頓着な人や、連絡を一日一回しないと気が済まない人もいる」
 指を折り折り向日葵は言った。
「それも、全部がその人の恋なんだよ。輝月の恋は?」
 問いかけに、輝月は考えた。
 私は翔琉が好き。そこまでは、腑に落ちる。そっか。恋ってこういうのなんだ。
 でも。
 私に、月へ帰るつもりはない。対して、翔琉は留学中。連絡手段が遮断されているとはいえ、あと一年で・・・・・・あと一年で、帰ってしまう。
「片想い・・・・・・で、絶対両想いになり得ないし付き合えもしない恋かな」
 言いながら、絶望的だと思う。さすがに、自称恋愛マスターの向日葵も救いようがないでしょ。さっさとこの話は終わらせて、勉強しなきゃ。受験の年が迫ってるんだからさ。
 ちらりと向日葵を見ると、らしくなく、でも案の定厳しい表情でこっちを見ていた。
「輝月」
「うん?」
 真剣そのもののその声音に、ちょっと驚く。
「絶対なんて、可能性を自分で封じちゃダメ」
「え?」
「恋に絶対はない。よしっ、なんか燃えてきた。絶対振り向かせてやるぅ!」
 えええ・・・・・・いや向日葵、絶対って言っちゃってるし。ガッツポーズを決めて宣言する向日葵を呆れ顔で見つめる。矛盾してるよ。
 それでも。
 恋に絶対はない、か。いいこと言うなあ。やるじゃん、恋愛マスター・向日葵。
 朝日の元気な笑い声が、人の溢れた廊下に反響する。ざわざわと賑やかな中、勉強から離れておしゃべりに興じる人々を見て、輝月はため息をついた。
 あっという間に時は流れる。あの日、向日葵と翔琉が鉢合わせしてからもう一年が経ってしまう。
 あと半年で高校生活が終わる。終わってしまう。高校から離れたら、もう一人の大人だ。不安と、期待と。恐怖と、希望と。
 いろいろ混ざった感情に、それでも胸の踊りが勝っている人が多いんじゃないかな。確かに、楽しみ。確かに、光に満ち溢れているように見える。
 それでも輝月は、悲しかった。不安じゃない。恐怖じゃない。悲しい。痛い。
 高校生活が終われば、卒業すれば、千夜通いも同時に終わる。翔琉に会う手段が消えてしまう。翔琉は肩を落として月へ帰り、落第。月はあの翔馬とかいうクソ生意気なキザ野郎が治めることになる。
 自分の夢と初恋、故郷の安寧。
 複雑に絡んだいくつもの切なる願いが、輝月を板挟みにしてうごめいていた。
「輝月・・・・・・恋するJKの面構えになった」
 朝日のしみじみとしたつぶやきに、輝月は途端に鋭くした視線を向日葵にやる。
「はぁ? も、もしかして向日葵から聞いた⁉︎」
「向日葵? 向日葵、なんか知ってるの?」
 ああっ、墓穴掘った私。余計なこと言ったね、コレ。
「しっ、知らないよね、知らないよね向日葵!」
「ん〜?」
 青ざめた輝月をちらりと見て、教えようかな、どうしようかな、って向日葵の瞳が意地悪に瞬いた。
 こっちこそどうしよう、だよ!
「ま、聞かないであげるけどさ」
 ふっと麦が表情を緩めた。向日葵もにやっとして、
「あたしも、教えないであげる」
「うん。別に、いいけど。でもさ、告白はしなよ。じゃなきゃ一生後悔する」
 朝日にしっかり釘を刺された。ええええ・・・・・・。
「そんなぁ」
「いや輝月、これはマジだよ」
 訴えるように麦を見ると、大真面目に見つめ返された。向日葵もうなずく。
「恋において後悔は残しちゃダメ」
「ならさ、告白して失敗したら気まずいし、気まずくなったら後悔するじゃん?」
「やった上での後悔はしゃーないよね」
「やらないときの後悔はその何倍にもなるんだぞ」
 全員から言われて悔しくなり、揚げ足を取ってみたら、朝日と麦から、熨斗ついて返って来た。
「はぁい・・・・・・」
 二人が言っていることはわかるが、気まずくなるのは辛い。
 告白。
 しなきゃいけない、そうだよね。後悔するもん。でも、それは最後の夜にする。それまで、この日々を楽しもう。
「あぁ〜・・・・・・」
 高校の卒業式の夜。
 ため息をもらして、輝月は薄暗い部屋のベッドに座り込む。
 ヤバい。無理、マジ。心臓がうるさい、ああもうやだ。もう一度、ため息をつく。
 明日だね、最後。やり切ったよ。昨日、そう言って笑みを見せながら、カレンダーに九百九十九と書き込んだ翔琉。
 来ないで欲しい、いっそのこと。
 この千夜通いの元となる小野小町の百夜通いは、完遂されることがなかった。九十九夜目に男の人が熱を出し、亡くなったという。
 死ねとまでは言わないが、というか死んでほしくはないが、なにかトラブルにぶつかって、一分でも一秒でも遅れてほしい。覚悟ができてないよ。
 ダメだ・・・・・・逃げちゃ。あとがない。朝日たちにせっつかれてから輝月は、半年も引き伸ばしてきた。だけど、もう明日はない。
 立ち向かうべき壁は、もう翔琉のみ。
 今日、全て言うつもりだ。翔琉への気持ち、月には帰らないこと。将来の夢。そして、謝罪。
 翔琉に手伝ってもらって、八宵にだって向き合えた。だけど、今度は自分一人で立ち向かう番だ。己を必死に奮い立たせる。
 偶然するりと解ける悩みもある。突然答えが目の前に現れてくれることもある。だけど、恋は違う。自分でぶつかって、当たって砕けろ精神でいかないと解決しない。相手の子が気を遣って、俺のこと好きだろ、なんて言い出すわけがないんだから。
 大丈夫。いける、大丈夫。
「輝月〜、家庭教師くん来てるよ?」
 時間、大丈夫なの? ああ、そう。帰りは送って行かせるからね、と会話がかすかに聞こえる。
 え?
 今日は正面から来たの?
 軽く髪の毛を梳き、服を整える。ふっと大きく息を吐き出して、気持ちを落ち着けると、はぁいと翔琉を迎えに行く。
「輝月。最終日でしょ、どうせならね」
 最終日ということもあってか、心なしか緊張した顔で駆け寄ってくる翔琉を、輝月は部屋へと誘う。
「ちょっと大事な話があって。いい?」
「え? うん。いいよ。っと、待ってね。千、と」
 カレンダーに赤でそう書き込んでから、輝月と向き合う。
「あの」
 息を大きく吸い込んで、輝月は話し始めた。
「私は、言い訳ばかりで、逃げてばかりで」
 八宵からも、ひいては月への帰郷からも。
「その度に翔琉に助けてもらって」
 自分がいじめられる理由がわかって、黒幕・・・・・・は大袈裟だけど、まあ操っていた人も知れて。
「自分勝手で」
 でもその頃にはもう、月へ帰ることが嫌だ、という気持ちよりも地上に住みたい、という気持ちの方が強くなっていた。
「大して可愛くもないし、口も悪いし、強がってばかりだし」
 たくさん翔琉の邪魔をして、結局翔琉の将来まで阻んでしまった。
「でも」
 私は、そんなに迷惑をかけたのに。
「翔琉」
 ごめんね。この気持ちは、どうしても消せなかった。
「翔琉が好き」
 自分勝手な思いで、ごめん。
 翔琉がゆっくり目を見開いた。
「翔琉が、好きなの」
 ごめんね、翔琉。本当に、ごめん。
「それと、もう一つ。私は、約束を破るけど、月には戻りません。・・・・・・ごめん」
 声に出して、深く頭を下げた。
「ここでやりたいことを見つけたの」
「なに?」
 かすかにかすれているけど、柔らかい声だ。なにをやりたいの?
「・・・・・・映画を、翔琉が好きな映画を作りたい」
「そっか」
 さすがに怒られるかな。
 でも、胸は、つっかえていたものが消えて、世界を一気に平和に変えるような、暖かく快い風が通り抜けたように清々しかった。
「サイコーじゃん!」
 顔を上げ、歯を見せて笑う翔琉に、輝月は拍子抜けする。
「へっ?」
 怒ってない。悲しんでない。ただ楽しそうで、ひたすら喜んでくれているように見える。
「いいことだよ。いつか輝月の作った映画、見てみたい。・・・・・・じゃあ、俺は帰る」
 翔琉が、あっさり部屋を出た。お別れは、こんなにあっさりしていた。
 ドアに消える後ろ姿を眺めて、くっと拳を握る。
 バイバイ、翔琉。三年間ありがとう、そしてごめんね。迷惑ばかりかけて。
 でも、とてもーー楽しかった。
 階下で、家庭教師くんはもう帰ったの? 輝月? と、怪訝そうな養母の声が響いた。
「大学合格、おめでとう〜! 麦も、朝日も、向日葵も」
 春休みに入って二日目。三人が家に遊びに来てくれて、養母も張り切り小さなパーティーのような様相になった家で。
「輝月も、ね」
 クラッカー三個持ちで鳴らした輝月に、乾杯のつもりか炭酸の缶を掲げて、朝日が言ってくれる。
「あ〜、よかった」
 養父はなんだか、荷を下ろしたようなすっきりした顔で、背もたれに体を預ける。養母もお茶を注ぎながらにこにこしていた。
「これもひとえに、家庭教師くんのおかげ」
「えっ、家庭教師? いたの? 男性?」
 耳ざとい麦がすかさず聞きつける。もう・・・・・・。
「あれ? もしかして、輝月?」
「そうなんじゃないの?」
 向日葵も、予想がついたのかなるほどとうなずいている。あの様子だと、しっかり家庭教師くん=翔琉だと脳内で結びついているらしい。
 麦と朝日は、正体は知らないけど、どうやら輝月が想いを寄せていた人というのだけは掴んだらしい。一斉ににやにやしだす。
「えーっ、会わせて! 会いたい!」
「もう・・・・・・もう、いないよ」
 二日前に、故郷に帰っちゃったからさ。
「えっ?」
「帰ったの」
 もう一度言って、息をひそめて存在を消していてくれる養父母に、輝月は声をかけた。
「ちょっと部屋行ってもいい?」
「いいよ、あとでいろいろ持っていくから。ごゆっくり」
 ごそごそ移動して部屋に入ると、三人に詰め寄られた。
「どういうこと⁉︎」
「帰ったって・・・・・・はあ?」
「告白はしたの?」
「会いに行きなよ!」
「告白はした。会いには行けない」
「おお・・・・・・偉い。告ったんだ、ちゃんと」
 それを聞けば充分だったのか、身を引いて、朝日がぱちぱち目を瞬いた。
「会いに行けないってどゆこと? 外国人なの?」
 麦が全く見当違いでもない答えを出す。外国人ってか、外星人っていうか、いや宇宙人だ。
「うん、まあ・・・・・・そんなもん」
 向日葵だけが、奇妙な目をして輝月を見ていた。
 ああ、だよね、向日葵にとっては意味不明だよね。彼女の中で、翔琉はバチバチの日本人だから。
「ちょっと、トイレ行ってくるわ」
 輝月は立ち上がった。
「ん。おけ」
「あっ、あたしも。借りるね」
 案の定、向日葵も腰を上げる。小さくうなずき返し、向日葵と廊下に出る。
 ドアの前で、二人は向き合った。
「ちょっと輝月。月野くんじゃないの? 家庭教師」
「んー・・・・・・」
 予想していた問いかけとはいえ、なんと答えればいいか。
「外国人って・・・・・・どういうこと? 輝月は月野くんが好きなんでしょ?」
「えっと。外国人っていうか」
「あ、会いたくないってこと? じゃあ、その家庭教師は月野くんでいいんだね?」
「うん」
「よかったー」
 ん?
 軽い違和感を覚える。
 なにがよかったんだろう? 思えば、さっきの焦りようも変だ。なににそんなに慌てているんだろう。
「・・・・・・輝月、大丈夫?」
「え?」
「寂しくないの?」
「さみ、し・・・・・・っ」
 不意打ちだった。
「輝月」
 声を詰まらせた輝月を、向日葵はぎゅっと抱きしめてくれた。
 寂しい。寂しいよ。寂しいに決まってる。せっかく頑張れたのに。せっかく壁を乗り越えられたのに。
 その努力は無駄だった?
「会いたいよ・・・・・・」
 あのキザ野郎にいじめられてない? 居場所はちゃんとある? ごめんね、私の気持ちが地上にあったばかりに、辛いことばかりで。翔琉こそ、翔琉の努力が無駄になったよね。なんで私はこんなに自分勝手な考えしか浮かばないんだろう。ごめん。
 寂しさ、不安、悲しみ、悔しさ、苛立ち。
 いろんな感情が押し寄せてきて、涙があふれた。思わずしゃがみ込む。背中に回っていた向日葵の手は、難なく輝月を離してくれた。
「輝月」
 向日葵が、背中に手を置いて、優しくさすってくれる。
「泣かないで、輝月」
 本当だ、泣いてちゃダメだ。輝月は涙を拭った。翔琉を不幸にした私がこんなんじゃ、申し訳が立たない。泣く資格なんて、ないんだから。
 どうかーー、どうか、泣いていないで、翔琉。
 翔琉、どうしてるだろう。あの翔馬ってクソガキ、大人しくしてるよね? 居場所は作ってもらったよね? ちゃんと健康に過ごせてるよね?
 幸せを奪ってしまった本人が考えるのも変だけど、心配でしかない。
 ああ、まただ。ふとしたときにまた考えてしまう。せっかく春休みなのに。ふと目を覚ませばすぐこれ。
 再び目を閉じるけど、なかなか寝れない。
「んん〜」
 ベッドから起き上がり、大きく伸びをする。ちらりと時計を見ると、早朝、四時。
 養父母はまだ寝ているのだろう、家は静まりかえっている。なんとなくできる限り音を消しながら窓のそばに寄る。薄くカーテンを開けると、低い空にはまだ朝行く月が浮かんでいた。
 冷えたサッシに、指を這わす。春月を見上げて、再び物思いにふけりそうになってーー慌てて、意識を現実に引き戻す。
 新聞でも取ってこようか。
 再び音を立てないように、極秘任務を負った忍者のようにして廊下を歩き、玄関を出る。ほのかに冷えた空気が心地よく体を包んだ。ポストをのぞく。分厚い新聞を取り出して、ざっと目を通す。
 政治家の面や、気難しい漢字と睨めっこして読み解いていると。
 ひらり、ひらりとゆったり、一枚の小さな紙が地に落ちた。
「ん・・・・・・映画のチケット?」
 デリバリーフードが流行る昨今だけど、配達式のチケットなんて聞いたことがない。
 なに、コレ。
 まじまじと見つめて、ふと気づいた。ある単語が、書かれていることに。
「待宵号・・・・・・っ!」
 瞬時に悟った。
 行かないと。呼ばれてる、──翔琉に!
 輝月は素早く玄関からペンを抜いて、軽く書き置きを残し、朝月夜の下走り出した。
 いつも月へ行くときに使っていたバス停へ。自分の家の最寄駅にバスが来てくれていたのだ。十分くらい走って、バス停に着くと、やっぱり待宵号が停車していた。
「お願いします」
 一年ぶりに乗り込んだ車内は、かすかにポップコーンの匂いが漂っている。
 懐かしい匂いだ。
 いつも、夢を見失いそうになったときに漂う、背中を押してくれる匂い。
「はい、Hの三でございますね」
 Hの三?
 床を見ると、ビニールテープで座席の列ごとにアルファベットが、進行方向左から一、二、廊下を跨いで三、四と設定されている。映画館式になっているらしい、スタンプを押されて、中に通される。
「Hの三と四・・・・・・ここだ」
 床のテープに沿って進んで行く。後ろから二番目の席の、進行方向右の座席のうち廊下側。
 窓側に、誰か座っている・・・・・・翔琉だ。
「おっ、来た、姫」
 ぴょこん、と頭が見えた。
 姫。
 その響きすら懐かしい。
「翔琉・・・・・・」
「よくわかったね。呼んでるって。思ったより早かった」
 優しい笑みに、輝月はほっとする。目立った外傷も見られない。肉体的ないじめの可能性は低そうかな。
 ん〜、顔色も明るいから、精神的にも大丈夫そう。
 彼の手にはキャラメルポップコーン。一つ自分の口にぽいっと放り込んでから、輝月を座るよう促した。
「翔琉、大丈夫? ごめんね、本当、ごめん」
「いいよ」
「どうしたの? いきなり」
「うん、色々片付いたから伝えたくて。俺も、やりたいこと見つけたんだ。地上で」
 地上で?
 驚いた。え? どういうこと?
 目を瞬いている輝月に、そっと、翔琉が顔を寄せる。
「そばにいたい。・・・・・・輝月の」
 耳元でそう甘くささやかれて、輝月は真っ赤になった。
「えっ」
 夢? これは、夢?
 かたまりながらぐらぐらと頭の中で思っていると。
「あーっ、恥ずっ。ヤバい、あぁあああっ、黒歴史だコレ。絶対誰にも言わないでよ、姫」
 ぱっと顔を離して、輝月の赤さが伝染したようになってしまい、いつもの翔琉に戻って頭を抱えた。
「え?」
「いやっ・・・・・・さっきのはさ、その、う、嘘じゃないよ? でも、夏井が」
 途端に不安げな表情を見せる輝月に、慌てたように翔琉が言い訳する。
 夏井って確か、向日葵の苗字。
「向日葵がなにかしたの?」
「いや、この前、地上にいる最終日に電話かかってきてさあ」
 告白の重要性や、女子の恋に対する見方などについて、こんこんと説教されたのだという。それから、今の告白の仕方を伝授された、と。
 ーーいつか使うかもでしょ。あたしには、いつかはわからないし、相手が誰かも知らない。
「結構大胆なんだな、あの子。正直ビビったよ」
 ああ、だからあの大学合格プチパーティーのときに焦ってたんだ。余計なことをしたかもしれない、輝月が好きなのは月野くんじゃなかったの、違うの?
「輝月に使っていいのかわからなくて。闇雲に傷つけるだけだろ? でも、今は事情が違うから。今日はいきなりだったでしょ? お母さんたちびっくりするよ。また明明後日、改めて迎えにくる。話つけといてね。うんと長く観光しよう」
 玉響の再会はあっという間に過ぎ去り、輝月はスタンプの押された映画館風バス乗車券を握りしめながら帰路につく。後ろでバスが発車した。
 ていうか。
 向日葵、マジで恋愛マスターだった・・・・・・。
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「・・・・・・お願いします」
「Hの三ですね」
 映画館風乗車券は、使い回し可らしい。二重に押されたスタンプを見て、ふっと笑えてくる。
「来た、姫。ごめんね、長い間ほったらかしてて」
 三日経ち、月に帰ってまた地上へおりてきたのにまだリメイクされたままの待宵号の、Hの四に座りながら翔琉がため息をつく。
「ううん、いいんだけど。どういうこと? 事情が変わったって」
「弟が生まれた。俺が次期東宮である必要はなくなったし、ある程度の自由も与えられた」
「じゃなくて。翔馬ってクソガキは」
「クソガキって・・・・・・同い年だけどね?」
 つるっと口がすべって、クソガキの双子の兄に、苦笑をこぼされた。
「間違えた。キザ野郎、カッコつけたがりで中二病のあの男子」
 まだ怒りが収まらない。翔琉にまあまあとなだめられ、ようやく口を閉じた。
 今日は塩味! と大きな笑みで見せてくれた、翔琉の膝上のポップコーンを一つ奪い、口に入れながら聞く。
「で、なんで?」
「八宵が」
 八宵?
「訴えてくれてたんだ。翔馬の行動全部を」
「ウソでしょ?」
 信じられない。あの子が? あの・・・・・・あの、八宵が?
 驚きが露骨に顔に出過ぎたのか、翔琉が呆れた顔になった。
「本当。八宵だって人間だから、根も歯もない真っ赤な嘘で平静さをなくして、人を傷つけたのが辛かったんだと思う」
「そっか・・・・・・そうだよね」
 悪いことをしたという自覚はあるのだ。少し、救われた気がした。
 発車いたしますとアナウンスの声がかかり、バスが軽いエンジン音を立てて走り出す。
「俺は地上に移住する。大学にも通う。今からだったら遅いから、一浪だけど」
「いいじゃん。やりたいことは見つかったの?」
 まさか、この前の言葉は本気で、輝月のヒモになるわけではないだろう。
「んん・・・・・・まあ、大学通いながら見つけるよ」
 信じられないほど気楽だけど、そこが翔琉らしいとも言える。
「ふうん」
「まあ、まず帰ったらゆっくりしよう。また商店街でショッピングしてもいいし。それから、八宵にも会ったらいいと思うよ。申し訳ないって言ってたし、一緒に行こう」
 後半に述べられたそれには正直あんまり気が乗らない。いじめっ子が、反省したふりをしてまたいじめるなんてよくある話すぎる。まだ疑いが完全に抜け切らない輝月だが、翔琉がついてきてくれるんならまあいいやと思い直し、輝月は素直にうなずいた。
「おっ、今日は三角だ」
 ハーフアップをとめているマジェステに視線を投げて、翔琉が朗らかに笑った。
「可愛い」
 フレームをなぞって褒めてくれる。まるで自分が撫でられでもしたように気恥ずかしくなって、輝月はそっけなくうなずいた。
 月の都で四人お揃いを買ってから始めたマジェステコレクションは、その数を増やし続け、今はもう二十に達している。その日の雰囲気で形や種類を変え、髪型と合わせて楽しんでいた。
 晴れ舞台には編み込みを添えて豪華なマジェステを使い、勉強会では清楚系ハーフアップに細めのフレーム、そして、まあ、その・・・・・・デート、用も、一応。
「行っておいで。まあ、十分程度で迎えにくるよ」
 その名の看板が掲げられた門の横に、一人立っている。それを見つけ、翔琉は立ち止まった。ぽん、と輝月の背を押して。
「ありがとう」
 輝月は懐かしい景色へ、走り出した。
「八宵」
 うつむき、待人来らずとばかりに爪をいじっていた彼女は、名前を呼ばれてぱっと顔を上げた。
「八宵、ありがとう」
 ここへ来る前は八宵になんて会いたくないと思っていたし、翔琉にもそう言った。所詮、八宵だから。どんなにいいことをしようと、人は変われないと。
 だけど、人は変われると、翔琉にこんこんと諭された。
 その人の見る目が変化すれば、人は変わる。逆に、ずっと意固地になってあの人はああいう人だから、とか周りが思っていると、その人はそのままだ。
 会わないと。仲直り・・・・・・は少し幼いかもしれないが、二人の関係は、孤児院に入った十歳の頃から変わっていない。仲直りしてもう一度、過去も全部まっさらに戻してやり直そうと、その心持ちでいた。
 だから。
「ごめんね。・・・・・・色々と」
 八宵が気まずそうに目を伏せた。変わってる。以前の八宵じゃない。いや、以前の輝月の目で見ていないからだろうか。
 ちょっと前なら、その目線のそらし方にさえ苛立ちを覚えたかもしれないのに、今日は、いいよ、と素直に笑えた。
「もう気にしてない。大丈夫だよ」
 その笑顔に八宵は目を上げて、安心したように笑い返してくれた。
 八宵も、もしかしたら。
 もしかすると、孤独から逃げて、重圧から逃げて、取り巻きを増やし、弱い者いじめをしてしまっていたのかもしれない、と思う。
 だとしたら、私たちは似ている。これからは逃げないって決めたから、輝月は翔琉に気持ちを伝えることができたし、八宵はあのキザ野郎のしたことを帝にチクった・・・・・・じゃないや告発できたんだろう。
 似た者同士は向き合って、さりげなく笑い合う。
 それから二人は、門の前に設置された花壇に座り、なにをするでもなく、自分の髪をいじったり、ぽつぽつと近況を話したりした。
 元気にこちらに手を振る人影を見つけ、輝月は立ち上がる。
「姫ーっ」
 声が届き、姫? と、八宵はぴくっと呆れたように眉を上げた。そういや八宵、翔琉のこと好きなんだったっけ。
「あっ、ごめん。その」
 途端にへどもどし始める輝月を見て、また八宵は呆れ顔で楽しそうに笑った。
「いいの。新しい人見つけたから。もう、いじめもやめたよ」
「そっか。よかった」
 八宵に向き直って、輝月は再度礼を言う。
「ううん、こちらこそありがとう」
 それから、ふっと笑みを見せた。
「王子様にみそめられるなんて、シンデレラね、まるで」
 からかうようにちょんと胸の辺りをつついて、八宵は踵を返した。

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