朝日の元気な笑い声が、人の溢れた廊下に反響する。ざわざわと賑やかな中、勉強から離れておしゃべりに興じる人々を見て、輝月はため息をついた。
 あっという間に時は流れる。あの日、向日葵と翔琉が鉢合わせしてからもう一年が経ってしまう。
 あと半年で高校生活が終わる。終わってしまう。高校から離れたら、もう一人の大人だ。不安と、期待と。恐怖と、希望と。
 いろいろ混ざった感情に、それでも胸の踊りが勝っている人が多いんじゃないかな。確かに、楽しみ。確かに、光に満ち溢れているように見える。
 それでも輝月は、悲しかった。不安じゃない。恐怖じゃない。悲しい。痛い。
 高校生活が終われば、卒業すれば、千夜通いも同時に終わる。翔琉に会う手段が消えてしまう。翔琉は肩を落として月へ帰り、落第。月はあの翔馬とかいうクソ生意気なキザ野郎が治めることになる。
 自分の夢と初恋、故郷の安寧。
 複雑に絡んだいくつもの切なる願いが、輝月を板挟みにしてうごめいていた。
「輝月・・・・・・恋するJKの面構えになった」
 朝日のしみじみとしたつぶやきに、輝月は途端に鋭くした視線を向日葵にやる。
「はぁ? も、もしかして向日葵から聞いた⁉︎」
「向日葵? 向日葵、なんか知ってるの?」
 ああっ、墓穴掘った私。余計なこと言ったね、コレ。
「しっ、知らないよね、知らないよね向日葵!」
「ん〜?」
 青ざめた輝月をちらりと見て、教えようかな、どうしようかな、って向日葵の瞳が意地悪に瞬いた。
 こっちこそどうしよう、だよ!
「ま、聞かないであげるけどさ」
 ふっと麦が表情を緩めた。向日葵もにやっとして、
「あたしも、教えないであげる」
「うん。別に、いいけど。でもさ、告白はしなよ。じゃなきゃ一生後悔する」
 朝日にしっかり釘を刺された。ええええ・・・・・・。
「そんなぁ」
「いや輝月、これはマジだよ」
 訴えるように麦を見ると、大真面目に見つめ返された。向日葵もうなずく。
「恋において後悔は残しちゃダメ」
「ならさ、告白して失敗したら気まずいし、気まずくなったら後悔するじゃん?」
「やった上での後悔はしゃーないよね」
「やらないときの後悔はその何倍にもなるんだぞ」
 全員から言われて悔しくなり、揚げ足を取ってみたら、朝日と麦から、熨斗ついて返って来た。
「はぁい・・・・・・」
 二人が言っていることはわかるが、気まずくなるのは辛い。
 告白。
 しなきゃいけない、そうだよね。後悔するもん。でも、それは最後の夜にする。それまで、この日々を楽しもう。