翔琉。
 本当に、ごめん・・・・・・。
 月と連絡が途切れたら、翔琉が真実を吐く方法がなくなり、どう手を伸ばしてもつながれないようなところで自分達が貶められているというなんとももどかしい状況になってしまう。ちょうど届かない背中の部位が痒いみたいな、そんな感じ。隔靴掻痒とはこんな心持ちなんだろう。
 もういいよ、気にしないで。
 そう言った笑顔の裏には、かなりの焦りが含まれていたはずだ。
 続けて慰めるように、月に連れ戻せばわかってくれるでしょ? と言われたけれど。そうなる可能性が低いところも知っていて、でも信じるしかなくて。
 必死に落ちないように細い糸を掴んでいる姿を、輝月は罪悪感と、そしてちょっと呆れたような気持ちで眺めていた。
 やっぱり隠し事が下手。すぐわかるよ。でも、そんなところも、私は。
 私は・・・・・・、どう、思ってるんだろう。
「おーい」
「んっ」
 はっと目を上げると、向日葵の顔が目の前に。鼻と鼻が触れ合うキョリ、キスするキョリ。かすかに鼻息もかかるし!
「わぁああっ」
「聞いてた? 輝月」
「できたよ、ほら」
 休み時間、朝日に、オソロのマジェステを使って髪をアレンジしてもらいながら考え込んでいたらしい。びっくりして大袈裟にのけぞる輝月に、教室に侵入してきた麦が横で爆笑している。
「ごっ、ごめん。ぼーっとしてた」
「しすぎでしょっ」
「で、なんだっけ」
「えっ、マジで聞いてなかったの?」
「進路だよ! 決まった?」
「あー・・・・・・」
 もう一つの、今の悩みの種。なにがしたいのか、さっぱりわからない。
 朝日みたいに趣味を仕事にするっていうのは素敵だと思うけど、趣味がない人にとってそれはあくまで素敵だと思う、でとどまる。麦や向日葵も、まあざっくり進みたい方向は決まってるらしいし。
「取り残されてるんだよね、私」
 ため息混じりにこぼす。麦が呆れ顔で聞いてきた。
「やりたいこととかないの?」「ない」
「好きなことは?」「ない」
「ん〜、じゃ、好きなところ」「ない」
「将来の夢」
「ない。ってか向日葵、それがあれば苦労してないの、今!」
 机を叩いて立ち上がった輝月の剣幕に怯まず、向日葵がにやにやする。
 麦に代わって、次は向日葵が続け様に質問を投げかけてきた。全部今知りたいことだし、全部まともじゃないから勢いよく答えてく。
「行きたい学校」「ない!」
「好きな職業」「ない!」
「好きな人、もしくはカレシ」
「ない! ・・・・・・はぁ?」
「勢いで答えてくれるかと思ったんだけど」
「実際いないから、まあ答えてるんだけど」
 つまらなそうな向日葵に、輝月は打ち返す。
「え〜。カレシはいなくともさ、好きな人くらいいるんじゃないの」
「皆いるの?」
「いない」
「いた」
「前告られた」
 朝日、麦、向日葵の順で答えが返ってくる。
「うん、待って待って、ストップ。はい? いろいろ聞きたいんだけど」
「うん。私も聞きたい。え、麦、いたって、過去形なんだ?」
 一番心臓に優しい答えだった朝日が目を剥く。
「私? 過去形で、カレシがいた。別れたけど。今はフリー」
「へぇ〜」
 全くの初耳だが、いてもおかしくないくらいクラスにはカップルが増えている。うん。自分の惨めさが際立つ〜。
「じゃないでしょ。向日葵だって、一番気になるのは。え? 告られた? 聞いてな〜い」
「当たり前じゃん、言ってないのに」
 えええ・・・・・・。
 がたがた椅子で遊びながらそうさらりと答えられて、三人はその自由さに圧倒される。
「え、誰?」
「内緒。プライバシー。てか結局輝月は? いないの?」
「いない」
「えぇ? ウソじゃん。月野くんは? なんかストーカー説出てたけど、進展ナシ?」
 ストーカー説・・・・・・いつか私も思ったことじゃん。勘違いだったけどさ!
「は? そんなわけない。そもそもしゃべらないし」
「えぇ? でも、最初の方めっちゃ追われてたし、絶対月野くん、輝月のこと好きだと思ってた」
 それには深いわけが、ね?
「うん。で、ストーカー説。警察に相談して大人しくなったんじゃないかって。まあ、恵奈たちは、ほらメンクイでしょ、そんなの気にせずアタックしてるけど」
「実際あたし、ストーカーだったら絶対近づかない方がいいって思ってたし、そんなイケメンに追われてる輝月もやばいやつだと思ってた人いると思うよ。本当、最初の一時期だけど」
 知らないところで貶められてる・・・・・・ああもう、話戻ってきちゃったじゃん!