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「可愛い」
 唐突に、言われた。急いで横を見ると、翔琉に後ろを覗き込まれている。
「え?」
「それ。クリスマスのときのやつでしょ?」
 ああ、これのこと。
 ローポニー×くるりんぱにした髪の毛の、結び目を触る。かすかに冷たい感触に、思わず微笑んだ。朝日からいろいろなヘアアレンジを教えてもらって、それ以来機会があれば結び、これも付けている。
「マジェステ。だったよな?」
「覚えてたの? 簪と笄の違いもわかんなかったのに」
「マジェステは覚えた」
 へえ、そう。からかうつもりで言ったのに、大真面目で返されてちょっと面食らう。
 すると、隣を通り過ぎかけた店から、声がかかった。
「あっ、坊ちゃん。・・・・・・と、彼女さん?」
「かのっ・・・・・・彼女って。違うよ」
 翔琉が顔を赤くして抗議する。たぶん遊ばれてるな、と思った。
 よく見れば、いつかのヘアアクセを売る店と、そこの店員さんだろうか、綺麗な女性だった。
「じゃ、ガールフレンド?」
「まあ、ある意味そう。直訳したら、だけど」
 女友達。
 確かに、適切な言葉だ。
「へぇ」
 女性が明らかにつまらなそうな顔になる。この様子からして、十歳くらい年下でも翔琉を異性として好いていて、一緒に来ている輝月に敵意丸出し、なんていう人じゃなさそうだ。
「輝月って言います」
「あの、有名な今かぐや姫ね」
 と、翔琉による注釈がつく。
 今かぐや姫って・・・・・・なんか既視感、というか既聴感? を覚えるんだけど。てか私、ここではそれで通ってるの?
「えっ。あの? どんなことしたの・・・・・・って、やだよね、聞かれるの。ええと、輝月ちゃん」
 いい人だ。
 輝月はその言葉だけで女性を大好きになった。余計な詮索を挟まないところが養父母に似ている。ふと、両親になにかお土産を買ってもいいかもしれないと思う。
「なんか買っていかない? いろいろあるよ、髪飾り」
「えっと。じゃあ、マジェステとか、あります?」
「あるある。めっちゃカワイイのある。あれならまあここでも作れるからね。今人気だよ。地上風ファッション。輝月ちゃんのそれもマジェステだよね?」
「はい」
「だよね。似合ってる」
「友達にもらったんです」
「いいなあ。よし、おいで」
 古臭い、ではなく、胸を張ってレトロと言えるおしゃれな店内に誘い込まれる。
「ここらへん、全部マジェステ」
「おぉ〜!」
 輝月は意図せず歓声を上げていた。鼈甲タイプはもちろん、丸や三角、四角などフレーム風、そのフレームにビーズが付いたものなどバリエーション豊富に取り揃えられている。
 カワイイから大人っぽいまで、向日葵の表現風にすると、クールキャラがツインテールにこれつけてパフェ食べてても違和感なさそうなものから、また、輝月がデスクでパソコン向き合って、バリバリOLしてても高校生ってバレなさそうってものまで。
 あ、どうせなら四人分買って、お土産にしよう。お小遣いは持ってきている。確か、地上の通貨でも使えるはず。
 この大人っぽいのは麦かな、いや朝日か。この、夏らしい青空に向日葵があしらわれたのは不動で絶対向日葵。
 このあとのことも全部頭から飛ばして考え込んだ輝月の横で、追いついてきた翔琉が苦笑していた。