「あっ、南條(なんじょう)さん!」
 一年半、その苗字を使ってきたけど、未だ慣れていない。
 なんじょう、南條・・・・・・あ、私だ。後ろから呼びかけられて、消化してから振り向いた。
「はい」
「来てたんだ」
「あ・・・・・・」
 海に来てた女子の一人だ。ただ一人、話しかけてくれた風変わりなお人。
 月の都よりももっと身を飾る技術は進んでいる。髪だって巻くだけではなく、茶色やときにはピンクなんかにも染めることができる。この人も、例にもれずにきらきら着飾っていた。
 毎朝懇切丁寧に巻いているのだろう、ふわりとまとめられ少しの崩れも見せない外はねのボブに、やっぱりここのJKらしくグロスで彩られた唇が、にこっと笑った。
「こんにちは」
「こん・・・・・・にち、は?」
 なんで私?
 心は驚いていたけど、表面はどぎまぎしながら、一応軽く会釈しておく。
朝日(あさひ)! なにしてるの?」
「あっ・・・・・・今行く!」
 後ろの派手な集団からかかった声に、その女子、朝日は答えて、それからこっちに向かってウインクでもするように、じゃあまた、と言った。
 明るく振る舞っているけど、今の様子や海水浴のときの反応から、この人が集団の圧に苦しんでいるのではないかということは容易に予想がつく。
 歓声と話し声がごった返す中で輝月は一人、隅のソファ席に座り、ぼんやりと辺りを眺めていた。
 クラスメイトの両親が経営しているカフェを貸し切り、どこからか特大のクリスマスツリーを持ってきて、派手なクリスマスパーティーである。
「姫。どお? 友達はできた?」
 隣に翔琉が座る。もう、人の目があるところでは絡まないでって言ってるのに。かなり不満に思うけど、まあ、隅っこだし誰も注目しないからいいか。
「できるわけないじゃん」
 皆が皆、人と触れ合うことがあんたみたいに簡単じゃないのよ・・・・・・ついっと顔をそらす。
「え〜。いい人は?」
「いい人って」
 その言い表し方に、つい合コンかよ、と突っ込みたくなる。輝月の苦笑をいいじゃんといなして、今光源氏は言い直した。
「気が合う人、みたいなの、いなかった? 話しかけてくれたり、さ」
「話しかけて・・・・・・」
 ふっと一人の笑顔が脳裏によぎった。
 あっ、南條さん! 来てたんだ。こんにちは。
 ・・・・・・ああ、ダメダメ。変な期待しちゃいけない。舞い上がったらその分、落ちたときに辛いんだから。急いで頭を振り、追い払った。
「いないよ、・・・・・・そんな、変な人」
「ふーん。そう」
 いかにもつまらなそうにうなずいて、翔琉はテーブルに頬杖をついた。
 そのときいきなり、拍手とともに声がかかった。
「メインイベント〜」
「プレゼント交換しよう!」
 カフェの真ん中に空間が作られる。ずらりと椅子が並べられ、一人一人そこに座った。
「皆、プレゼント出して〜」
 おっ、と翔琉が表情を明るくする。
「ほら行こう。姫」
 ぐっと手首を引かれて、輝月は立ち上がった。