「本当、ごめん?」
ついっと顔をそらして、輝月は眉をしかめた。
夏休みなので、蝉の声の中真昼間に、家の玄関から堂々と今光源氏は来た。
両親はずいぶん驚いていたけど、勉強を教えにきてくれたんだって説明したら、喜びに喜んで、キンキンに冷えた飲み物とクッキーを出してくれた。
夜じゃないけど、今日も千夜通いにカウントするらしく、いつも通りカレンダーに数字を書き込んで、それから今に至る。
「いいって。別に、怒ってないし」
「ほら、怒ってるじゃん。ねえ、ごめん。ちょっと楽しくなっちゃって」
別に、いい。必死に謝る今光源氏に、輝月はため息をついた。
楽しい。そう思えるなんて、羨ましい。
知ってる。わかってる。あのノリについていけず輪から外される自分から逃げたんだってこと。だからもう、放っておいてほしい。
ねえ、せっかく逃げ出したのに、また惨めの淵に突き落とすの?
「お詫びにさ、そう、今日は誘いに来たの」
「もういいって」
「夏祭り。一週間後の。一緒に行こう? 十回目記念とかで花火、いつもより大きいんだって」
いつもって、初めてのくせに。胸を張って自慢げにポスターを突き出してきて、つい苦笑がもれる。それから、違う、と思い直した。
断ってるのに。なんでこんなに図太いの?
「次は、二人で」
二人で。かっと顔が熱くなる。そんな、まかり違ってもデートみたいな・・・・・・こと、できるわけ、ない。
「だから、お願いっ」
この人は、なんでこんなにいつも必死なんだろう。
ぱんっと合掌して、土下座までしそうな勢いの今光源氏に、海水浴の前に感じた疑問が、また、むくむくと湧き始める。
その気持ちが暴走したのか、知らず知らず、首は動いていた。
「わかった」
消え入りそうな声で答えてから、我に返った輝月は焦った。なに言ってんの、私!
「本当? やったー!」
「うっ、うん、うん、だから。それだけ? 話」
「うん。あ。でも、勉強。一応教えるよ。課題、終わってないでしょ。全然」
確かに、なにがなんでも帰すのは早い気がした。納得はするけど、嫌なところを的確に突かれて、ちょっといらっとする。
そうだよ、一問も終わってないけど、なにか!
✳︎ ✳︎ ✳︎
「じゃーね」
ひとしきり教わって、今光源氏が玄関に堂々と向かう。
「家庭教師くん! ありがとうね!」
「また来てな。輝月は奥手だから」
奥手ってそれ、なんか悪口じゃありません、お養父さん?
「あ、はい。またお邪魔しますね」
両親からの壮大な見送りを受けていなくなってから、輝月はリビングに戻った二人に、お願いがあるんだけど、と声をかけた。
「どうした?」
「あ、あの、浴衣、買いたくて・・・・・・」
恥ずかしい。男子と行くの、バレないかな。顔の赤さを見られないように、伏せ目がちにお願いする。
「ああ、夏祭りね?」
まだこの世界に不慣れな輝月は、一人で買い物に行くことが難しい。不本意ながら、どのようななにを買いたいかまで言わないと行動できないのだ。
ちらりと冷蔵庫に貼られたチラシに目をやって、納得顔の養母。
「うん、そうなんだけど・・・・・・」
「さっきの家庭教師くん? いいよ、一緒に買いに行こう」
一瞬で悟られた。だけど、冷やかすことも止めることもせずに、にこにこして養母は言う。
横で、コーヒーを飲みながらくつろいでいた養父も笑みを見せていた。普段は仕事で接する機会がないが、優しい性格だということは、初対面の笑顔でわかっていた。
ありがたい。
本当、有難い。気遣いでも構わない。だけど、この人たちのあんまり深くまで詮索しないところに、輝月は救われていた。
もちろん、最初の方は、輝月の元の生活に合わせたいからと、やんわり以前の習慣などを聞かれることはあった。でも、それ以上はなにも言わない。
「ありがとう!」
「いいんだよ、全然。去年は普段着だったもんな。おしゃれくらいしたい年頃だろう」
「なんなら今日、行こうか? 輝月にはなにが似合うかなあ」
勢いよく頭を下げる輝月に、二人は微笑んだ。
前の両親は、十歳になるかならないかの頃に死んだ。そこに詐称はない。だけど、どこ出身でどこから来たのか、とうるさく聞かれていたら、答えに窮して早々に飛び出していただろう。
行く当てもなく、髪の毛もぼろぼろで、服も着た切り雀。噂を聞きつけた月の都の人々に探し出されて見苦しい格好で帰って、孤児院に戻って、・・・・・・もっと、もっと、・・・・・・八宵に、いじめられて。
命の恩人と言っても過言ではない。それくらい大きな恩をもらっているのだ。だけど、今の輝月じゃ、なにも、なにも返せない。逃げてばかりで自分のことさえまともにできないのに。
ひたすら申し訳なく、その分もっと親切が身に染みる。
ありがとうって、感謝の気持ちを伝えることしかできない自分が歯痒くなる。
✳︎ ✳︎ ✳︎
しゅるるるる、と空気の抜けるような音とともに、周りのざわめきがにわかに大きくなる。それを押さえるように、夜空に一発。物が落ちた音の比じゃないくらい大きく、雷よりももっと柔らかい音が響き渡った。
続けてどぉんと二発、三発。日が落ちかけた空に上がる花火に、輝月は思わず笑みを浮かべる。
その横で、おおっ、と今光源氏は目を瞬いた。存在くらいは知っていたのだろう、その光景に驚きはしなかったけど、物珍しそうな顔で見つめていた。五秒も経たずに消えてしまう、その儚い光に目を細める。
「綺麗だなぁ」
「うん。すごく」
ごろん、と今光源氏は、風に小さく揺れる草むらに寝転んだ。
「お〜。いい景色だ」
どんなリポーターよりもリアルに感嘆した声を上げるので、つられて輝月も、白地に藍の牡丹が咲く浴衣が崩れないように慎重に横になった。
さらに花火が続く。
「うわすご、可愛い・・・・・・」
なぜかハートに開いた花火に、輝月は驚きつつも感嘆する。
「えっ? あ、綺麗」
一瞬消えかけたと思ったとたんに楕円形に開く花火。
「うわあ、すげえ」
「わーっ。柳みたい」
すっと地に落ちていく、華やかだけど儚い花火。
「おおお、ゴールドだ!」
最後に、四方八方からさまざまな色の花火が打ち上げられ、夜空を自分の色で好きなように染め上げた。
すうっと心地よい余韻を残して、高揚が闇に消えてゆく。
ざわざわとかしましく、浴衣姿の女子や、子供の手を引いた男性女性、朗らかに笑い合うカップルが立ち上がった。
「はーっ・・・・・・」
急に力が抜けて、開きっぱなしだった目を閉じる。あ、と、上半身を起こした今光源氏がびっくりしたような声を上げた。
「なに?」
「あれ・・・・・・」
輝月もよいしょと起き上がり、軽く帯を整えて指された先を見る。今光源氏にとってそれがは、自分の故郷がこんなにも美しいんだという驚きの声だったんだろう。
ぽっかりと、わずかに欠けた綺麗な月が、夜空で光を放っていた。それを見て、思わず黙り込んでしまう。
「あっ、ごめん。あんまいい思い出じゃなかったよな」
「う、うん・・・・・・」
最初の方こそぐいぐいと月に帰ろうと言ってきたものの、拒否し続ける輝月になんとなく察したのか、最近は遠回しな表現ばかりだ。
気を遣わせてしまった。しかし、だからといって気を遣い返すのも変なので、うつむきがちに肯首して、ちらりと今光源氏の横顔を見る。
切なげで悲しそうで、なぜか少し、悔しそうだった。
さすがの今光源氏も、ホームシックになるのだろうか。それも、・・・・・・私のせいで?
いたたまれない。
これまで感じたことのないほどの、湿った感情が、輝月の口から溢れ出た。
「ぃ・・・・・・一回、月、帰ってやってもいいよ。寂しいんでしょ?」
「え?」
弾かれたようにこちらを向かれて、目を合わせてられずに思わず膝に乗った自分の手を見る。
「一回。一回だけ、夏休みが終わる前までならいいよ」
「本当? いいの?」
「うん」
今光源氏が、弾け飛びそうなほど明るい笑みを顔に浮かべる。
でも、問題が一つあった。絶対に、あそこには。そのまま、言葉に乗せる。
「孤児院には、帰りたくない」
「いい、いいよ、いいんだよ。うちにいればいいから。やったーっ、決まりね、決まり!」
そんなに喜ぶ?
狂喜乱舞という言葉がまさにぴたりと当てはまってしまうような反応に輝月は戸惑いを覚えたものの、それほど寂しかったのだろうと思い、まるで子供みたいだとつい微笑んでしまうのだった。
違和感は、帰郷してから日に日に大きくなっていく。輝月はふっと小さく息をついて、寝返りを打った。高級な布団はふかふかで、ぐっすり眠れるはずなのに。
一週間余の滞在に、今光源氏と同じ家で過ごすことになってしまったが、それは、孤児院に戻ることに比べればはるかにマシなので置いておく。
それよりも、今光源氏は、きっと二ヶ月ほどの地上での滞在で、ホームシックになり寂しいから月をあんな目で見つめていて、帰ってやってもいいよと言ったときも、あんなに嬉しそうだった。そう、思っていたのだけど。
でも、この家に帰って来たときからおかしかった。
やけに現代風の家で、家具などは最新のもの。おそらく、地上からのお取り寄せだ。
それはまだいい。帝の息子なのだから、金などは有り余っているのだろう。セレブ、だ。思えば、水着代三千円をぽんと出してきたのも、普段の生活で金銭感覚が狂っていたと思われる。
それより。
「一週間ぶりって、言ってた・・・・・・」
家にいるたくさんのお手伝いさん、特に女性、いわゆるメイド。噂話に興じるのは物語の世界だけではないようで、掃除をしながらのトークで、そういう言葉を耳に挟んだ。
ということは、一週間前に、アイツはここに帰ってきている。
いや、考え直せば、監視員でもストーカーでもない今光源氏は地上で絶対に輝月とぴったりくっついておかなければならないわけではないため、結構気軽に行き来していてもおかしくはない。
ここで、もっと妙なことが一つ浮かび上がってくる。
その綺麗な横顔が曇っているからノスタルジアかと深読みし、血の滲む思いで今回の決断を下した輝月の気遣いは水の泡だったのだ!
その点がムカつく。隣の部屋で寝ているアイツを羽交締めに、いや違う、そうじゃない。考える上で、その感情はいらない。また言い訳はたっぷり聞いてやるから、それは後で。
つまり、なんであんなに喜んだんだ、ということ。
ホームシックではなかったなら、なぜ? なんのために?
今光源氏の普段の里帰りと今回の里帰りを比べてみると、単身で帰るか、輝月というお荷物がついているか。ということは、輝月と帰ることに意味があった?
確かに地上から帰ってこいと命じられ、それが、留学してくる前の今光源氏の、本来の目的だ。でも、一時期だけの帰郷は、別になんにもならない。
「両親にご挨拶、でもないし」
一般人中の一般人である輝月なんかが帝にお会いできるわけもなく、そしてそもそも付き合ってない。結婚まで行くのは、いくらなんでも横暴だ。
しかも、さらに変なのが、今光源氏の態度。まるで、そうまるで、輝月を楽しませようとしているかのような。自分ではなく。
さらに、今住んでいるのは別邸のようだが、家族が住む実家に帰る様子も見せない。
今光源氏はホームシックだなんて、明らかにあの視線だけでおしはかった輝月の思い込みであったと、反省せざるをえない。
えぇえ? どうなってるんだそこらへん。
・・・・・・一気に考えすぎた。普段は使わないせいで脳が散り散りだ。ふっと息をついて、ゆっくりと目を閉じた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「この髪飾りとか、いいんじゃないか? 日本髪にさす、ほらなんていったっけ。結構日本が好きな人はいるんだ」
「こっちは、風鈴だ! ここはあんまり気温の上下はないけどな、地上に憧れて買う人が多いみたいだぞ。音もいいし」
「おっ、これこれ。だいぶ前だけど、地上ブームが起こってな。この、スマホに似せたちゃっちいゲームがバカ売れしたんだ。俺も遊んでた。でもさ、本物見たときは鳥肌がたったよ」
「ほらこれ、キーボード風インターホン。面白いだろ? 地上もいいけど、こっちも、真似しかしないくせに工夫だけはすごいんだ」
賑わう商店街でぺらぺらまくし立てられ、適当に相槌を打って、あ とは目を白黒させながらついていくのが精一杯だ。手首を強く握られあちこちを走り回る。
「簪ね。坊ちゃん、いい加減覚えて?」
「そうそう、特にうちのはね、特別な音がするんだよ」
「ああそうか、坊ちゃん地上に留学中だものね。というかちゃっちいってなに!」
「言い方に棘があるけど。ん? 今やどこの家でもこれだけど? 真似も工夫のうちだし」
いろんな人から話しかけられて、それに素早く答えていく。
「ああカンザシ、それそれ。でも、コウガイと区別がつかないんだよね」
ヘアアクセを売る綺麗なお姉さんには照れ笑いで応じて。
「本当だ。しゃらしゃら言ってる」
風鈴を店先に飾るおじさんには驚いた顔をしてみせ。
「あ〜、ごめんごめん、つい本心が」
あんたも遊んでたくせにとあかんべえをする女性には、お返しのようにぺろっと舌を出し。
「そ、そうだもんね、うんうん」
細身のお兄さんでもすごまれたら慌てたようにうなずく。
流れるような素晴らしい対応に、思わず目を見張る。どうやらここでは、『坊ちゃん』と呼ばれて慕われているらしい。
元来、人と関わるのが得意なのだろう。怒ったり、睨んだりしながらも、それは振りだとわかる。全員目は笑顔を見せていた。
「あっ!」
ぼんやりと感心していると、するり、と手首を掴まれていた感覚がどこかへ逃げていく。身長が大人よりわずかに小さいくらいの、特徴のない今光源氏の頭を見つけることは困難だった。
どうしよう、はぐれてしまった。ここ、月の都で通用する携帯電話は持っていないし、待ち合わせ場所も決めていない。
いろいろ考えたが、ひとまずど真ん中で立ち尽くしていたら邪魔になるとふらふらと人の波に合わせて歩き、小洒落た洋服店の前で、ぷっと吐き出された。
どうしよう。ひとまず、この商店街から抜けようか。
小さく靴音を鳴らしながら、石畳の道を戻る。何人も同じような年頃の女子が横を駆け抜けていく。思わず足元を見つめた。堂々と歩く自分が、恥ずかしくなったから。女子高校生が一人商店街を歩くなんて、陰キャ丸出しすぎだ。
いや、それよりも、どこか、気後れというか、怖気というか、やましいような気持ちがあった。
私は・・・・・・ここにいて、いい存在なんだろうか。月の都で生きる資格なんて、あるんだろうか、と。
何度も、あの常軌を逸した劣悪な環境から逃げ出そうと試みて。六回くらい見つかって、最後、帝にツテを持つ院長がなんやかんや動いて地上に落とされた。
鑑真かよ。歴史で習ったことをふっと思い出して、思わず笑いが込み上げる。しかも、脱出失敗だし。・・・・・・いや、ある意味成功かな。養父母は優しいし、八宵からも解放されたし。
て、ことは。
リアル鑑真じゃん。
意味のわからないことばかりで頭の思考を濁して、足を止めずに歩き続ける。ちらちらと爪先が視線に入り、石畳に浮かぶ細かい粒がどんどん後ろに流れていく。
そのとき。
なにかとぶつかって、反動にたえきれず尻餅をついた。ずきん、と尻が痛む。でも、違う、先に謝らなきゃ、人とぶつかったんだもの、謝らなきゃ。
ぱっと顔を上げて、声を発する。
「あっ、ごめんなさ・・・・・・いっ」
思わず息を呑んだ。だって、だって。
じりじりと、石畳をあとずさる。ますます尻が痛むけど、そんなの、構ってられなくて。
「は? なんて?」
「聞こえなかった」
「ていうか、なんでお前がここにいんの?」
一気に太陽が陰った。着飾った四、五人の女子たちが、天を覆っていた。
こつん、となにかに背中がぶつかる。ちらりと視線をやると、磨き込まれたショーウィンドウだった。きらきらと輝く雑貨が飾ってある。
逃げられない・・・・・・っ。
外から見れば、それは、着飾った女子が、身の丈に合うような可愛い雑貨を見ているようにしか見えない。中に怯えて座っている輝月の存在なんか、見向きもしないで。
「あ〜あ、やっといなくなったと思ってたのに」
「しかも、噂に聞いたところ、帰るのを拒んでるっていうもんね」
「やっと自分の立場わかったかって感じ!」
八宵と、その取り巻きたちがけたたましい笑い声を商店街に反響させる。
ぐっと下を向いて、唇を噛む。
自分の立場ってなに? なにをこの人たちは言っているんだろう。幾度となく思った疑問はいつも、暴力によって霧散する。
というよりは、なにかワケがあるんだろう、と思ってしまうような、尋常じゃないいじめ方なのだ。
「・・・・・・だったんだけど、な〜」
「なんで戻ってくるかなぁ」
「うわっ、なにこの髪の毛」
「ストレート。ダサ〜い」
「巻かないのー?」
がっと自慢の髪の毛を掴まれて、強引に立たされる。頭皮がずきずきと痛い。
「やめて・・・・・・」
そのとき、染めることさえ知らないくせにとか、制服クソダサいじゃんとか、そんなことを言い返せばいいものを、小さく声を上げることしかできず、そしてどうにもならないことは知っていた。ますますエスカレートすることも。でも、そんな小さな抵抗するしか術はない。
ああ、今光源氏と初めて会ったときは、あんなに抗えたのに。この人たちは、抵抗しても無駄だと、体のあちこちに刷り込まれているから。
案の定、輝月の困っている姿を見て、くすくすと嘲笑がもれる。
「ん〜? やって、って、言ってるけど、八宵」
言ってない、そんなこと。
追随するように、他の子も八宵に言う。
「どうする?」
「ふふっ、聞いてあげるよ。どうされたい?」
逃がして欲しい。もう、あんなに痛い思いをするのは嫌だ。
くい、と形の整った唇の端を持ち上げる八宵は、輝月の目にはなによりも怖く映った。
殴られて蹴られて、踏まれて。あの日々を思い出しても、痛いことばかりで。白黒でがたがたにしたはずの思い出に、徐々に生々しい色がつけられていく。
やめて・・・・・・。
小さな抵抗はあっけなく蹴り飛ばされ、他の子も見て見ぬふりで横を通り過ぎてゆく。
涙があふれた。
しょうがない。八宵は孤児院の院長の娘。誰も逆らえなかったんだから。
ダメ。泣いちゃダメ。泣いたら、もっと便乗して酷いことをしてくる。知ってるから。ぐっと唇を引き締めて、うつむいた。
「なんも言わないけど」
「おまかせだって〜」
「ふぅん、わかった。じゃあ・・・・・・」
今回は、なにをされるんだろう。ぎゅっと目を閉じて、早くこのときが終わるのを待つ。いつかは、そう、いつかは終わる。
そんなの、叶わないことは知っていたのに。叶わなかったから、逃げ出そうとしたのに。なのに、いつか終わると唱えることしか、輝月は精神安定の方法を持っていない。
もしかしたら、連れ去られて孤児院に戻されるのかもしれない。永遠にも思える苦しみが、また始まるのかもしれない。
どうしたらいいの? 体を強張らせて、拳を握る。
どうしたらよかったの?
「なにしてるんだよ!」
一喝。
はっと顔を上げると、青ざめた八宵たちと、初めて見るほど厳しい顔をした今光源氏が立っていた。そのさらに奥には、小さな人だかりまでできている。
「今光源氏・・・・・・」
「姫、姫、大丈夫?」
八宵たちに見向きもせず駆け寄ってきて、傷がないか、身体中を改められる。
「うん・・・・・・ありがとう」
ふっと力が抜けて、こらえていた涙が頬を伝った。見られないように、顔をさりげなく背けて、礼を言う。
「坊ちゃん」
「知り合い?」
「ああ、探してた子なのね」
「大丈夫?」
女性多めでいろんな人が、『坊ちゃん』の知り合いというだけで話しかけてくれる。はい、とうなずいて、髪を整えた。幸いまだ、大きな暴力は振るわれていない。
「坊・・・・・・ちゃん、って」
そっと、取り巻きの一人が青ざめて、他の子と顔を見合わせ始める。
「もしかして、あの?」
「帝の、息子の・・・・・・」
「やばいよ八宵」
帰ろう、と促されている当の本人の八宵は、輝月を介抱する今光源氏を見て、愕然とした表情になっていた。
「八宵っ」
「なにしてるの、帰ろう!」
痺れを切らした仲間達に半ば引っ張られるようにして、八宵の背中は野次馬の間をすり抜け、商店街の人々に紛れ小さくなっていく。
今光源氏は、その背中を忌々しげに見遣った。
「皆、心配かけてごめん。と、ありがとう」
ぺこっと今光源氏が、声をかけてくれた人たちに向かって頭を下げる。輝月も慌てて倣った。
「ありがとうございました」
「いいのいいの」
「よかった。どこも怪我してないんだね」
「嫌ね、物騒だわ」
「昔もいじめとかあったけどねぇ」
「やっぱり女子って陰湿なのかしら」
「自分に帰ってくるからやめて〜」
にこやかに言ってから、喧しく噂話に興じつつ後ろの店に入っていく。
ああ、可愛い雑貨店のお客さんだから女性が多いんだ、と納得する。
「ごめん。はぐれちゃって」
「いいよ、俺も張り切りすぎたし。・・・・・・疲れただろ? 帰ろう。後で話は聞くから」
すっと目の前に手を差し出され、戸惑った視線で今光源氏を見てしまう。
「もう、はぐれないように。ほら」
「うん。ありがとう」
そっと握る。まるでエスコートされてるみたいだ。
ちょっと、いやめちゃくちゃ恥ずかしいけど、はぐれるよりはマシだから。そう。はぐれるよりはマシなだけだから。
心で唱えながら、輝月は歩き出した。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「そうか・・・・・・だから、帰りたくなかったんだな」
一切を聞いた今光源氏は、眉根を寄せてうなずいた。
「なんでそんなに酷いことをしたんだろう」
「なんでだろう・・・・・・昔はね、というか、孤児院に入りたての頃は、小さな悪戯を仕掛けられるのはしょうがないってセンパイに言われてて。洗礼みたいなもの?」
取り巻きたちとともに新入りをいじめるのが、一年に一度から三度、小さな子を皆の前で紹介してからのルーティーンとも呼ぶべき行為だった。それはぶつかられたり、仲間外れにされたりというほどのもので、悪戯と呼ぶのに等しかった。
きっと、孤児院での生活が暇だったんだろう。
「うん・・・・・・知ってる」
「え?」
意味深なつぶやきを耳にして、そっちに顔を向ける。辛そうに強張った顔を左右に振って、今光源氏はううん、なんでもないと慌てて頬を緩ませた。
でもその小さな悪戯も、一年ほどのことで、また新しい子が来たらターゲットを変更する。それからは、気に入られてその取り巻きに入るか、ほとんど関わり合いがなくなるかだと、聞かされていた。
実際、半年ほど経った頃、他の人よりずっと早いペースで頻度は減っていった。八宵本人が姿を見せることはなくなり、取り巻きたちのさらに小さなものに変わった。
なんだか耳に挟んだ噂からすると、恋をしたらしい。
ああ、もうすぐ終わるんだ。そう期待し始めていた。
だけど。
唐突に、再びいじめが始まった。拷問、と呼んでも過言ではないかもしれない。罵られて殴られ蹴られ、幾つも体にアザをつけられた。髪の毛を引っ張られ、傷をつけられて。
最初の方のものよりも、もっと酷い。それも、輝月ピンポイントだった。物を隠されるのは日常茶飯事。そして、なにも知らない大人に怒られると、あの人たちはにやにやした顔で眺める。
最初の方は抵抗していた。逃げたり、大人に言いつけたり。
でも、どこに逃げてもどうにかして見つけられたり、相手が院長の娘であるためいじめ自体をもみ消されたりした。
それでも輝月は、その強大な権力に歯向かった。
無抵抗主義なんて意気地なしなだけ。そう思ってた。
「いじめの再開は、いきなりだったのか?」
「うん・・・・・・正気じゃないって思うくらい酷かった」
なにか、私をいじめる理由がないとおかしいくらいに。
輝月は疲弊していたのだ。
なにかしらの理由があって執拗にいじめてくる相手には、無抵抗主義を貫くことがある意味賢いのかもしれない。一番の対処法なのかもしれない、と。
それからは、小さな小さな抗いしか、できなくなっていた。大人には言わない。できる限り隠れて暮らし、ひたすら謝ってそのときをやり過ごす。
「そっか」
輝月は、その理由を聞いたことがあった。常のような罵りとともに、ぽんと八宵の口から出てきたのだ。
あなたなんかが、・・・・・・だなんて信じられない!
なんて言ってたかな。朧げな記憶をたぐるけど、曖昧な部分は曖昧なまま、答えは出てこなかった。
あのときみたいに、誰も助けに来てくれないと思った。だって、八宵たちにとってうまい隠れ蓑が、後ろにあったから。
「そういえば、なんでわかったの? 外からは、見えなかったよね?」
「いや。はぐれただろ? それで、あの雑貨店探してたら、中から見えたから・・・・・・」
そっか。ショーウィンドウだったから、中からは見えるんだ。おかげで助かった。八宵たちが、絶対にバレないと思って選んだ場所が、今光源氏を呼び寄せたんだ。
「よかった・・・・・・ありがとう」
怖かった。思わず弱くつぶやく。それから、隠すようにもう一度礼を口にして階段を上がり、自分にあてがわれている部屋へ戻った。
「おやすみ」
「うん。おやすみ、姫」
小さな挨拶がリビングに響く。
「ごめんな・・・・・・」
その背を追いかけるように発せられたため息まじりの悲しげな声はしかし、今ドアの中に消えようとしている輝月の背中まで届かなかった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
定員八人ほどのレトロなバスの扉が、バスガールの手で開けられる。
これが、月と地上をつなぐただ一本のバスだった。予約制で、一日一本のみ運行。バス停は帝がおわす屋敷の前に設置され、乗るには莫大な料金と、そして一つ、規定を守らなければならない。
月のことを、地上で他言してはいけない、ということだ。
何度も何度も言い聞かせられ、母に叱られる子供のような気分になったところで、ようやく地上へと旅立てる。破れば地上出禁の上に、培ってきた社会的地位もなくなってしまう。その厳しい条件のせいか、これまで破った人はいないというし、おそらくこれからも出ないだろう。
輝月の場合は今光源氏が、全て料金を負担してくれていた。
このバスの名ーー待宵号と書かれた券を渡し、乗り込む。中は、新幹線とかによく見られる横座席。
大して柔らかくもないクッションの椅子に腰掛けて大きく伸びをして、今光源氏はにこにこする。
「楽しかった?」
なんで疑問形?
不思議に思うけど、一応小さくうなずいておく。
月の都がトラウマである輝月に気を遣ってくれたのかもしれない。怖いこともあったけど、楽しいことも体験させてくれた。苦大なりイコール楽、くらいだけど。
でも、嘘じゃない。部分を捨てて答えることは、嘘じゃない。切り捨てみたいなもんだから。
そう考え直し、もう一度、自信を持ってうなずいた。
「出発いたします」
バスガールのマイク越しの声とともに、すっとバスが動き始める。三度目の乗車だった。夏休みももう終わりかけ、いうこともあってか、二人の他に乗客はいなかった。
これが夏休みだとか、冬休み、春休み、ついでにゴールデンウィークだったりすると、二、三組いるんじゃないだろうか。
でも、それくらい地上へ降りる富と覚悟が両方そろっている人は少ないのだ。
バスが一日一本なので、日帰りが、バスの帰る準備が終わるまで、数秒、数分とよっぽど短くないと不可能であり、長期滞在する人が多い。
あたりを見回して、遠慮がいらないと思ったのだろう、今光源氏が声を出した。
「もう、夏休みも終わりだな」
「そうだね・・・・・・」
一抹の寂しさが、二人の間を流れた。今夏は、たくさんの思い出が詰まっている休みだった。それが、終わる。
海水浴のときの傷も、それを癒す夏祭りも。やりたくないと散々わめきながらも課題を手伝ってもらったこともあった。毎夜の小さな会話が積み重なり、もう二ヶ月。そして、今回の帰郷。
全てが今、思い出になって溶けてゆく。
つつがなく八月が終わり、九月に入って、十月に文化祭も終え、十一月も普段と変わらず過ごした。
昨年と違ったのは、虫時雨の中お月見を今光源氏としたことだ。強引に誘われて、押し切られて引っ張り出された。いつもこうだ。
いつもはどちらかといえば周りにふよふよ漂う女子に流されて行動する男のくせに、輝月が関わるとなんでこんなに、謎に厚かましくなるんだろう。
彼に対する幾つもの違和感が芽生えるどころか、すでに輝月の中で葉を生い茂らせ枝を張って育っていた。そろそろ剪定しないと、生活に支障をきたすくらいに。
でも、切り出せずにいる。別に変じゃないよと、再びゴリ押しで終わりそうな予感がしなくもないからだ。輝月は決して口が達者ではない。だから、いつも押し負けてしまう。
まあ、いいか。
ベッドに寝転びふうっとため息をもらす。暖房が効いた部屋で、思わずうとうとしていると。
がんがん、と窓が叩かれる音で、目が覚めた。かすかに人の声もする。
あ、忘れてた。氷輪を映す窓に近づいていって、鍵を開ける。
「ごめ〜ん。うわっ、寒っ」
ひゅぅう、と今光源氏と一緒に吹き込んできた雪まじりの風を、ぴしゃんと窓で遮った。
「寒っ、て・・・・・・俺はこの寒い中来てやったのに? 開けとけよぉっ」
不満をこぼしながら、エアコンの下で、タイタニックの姿勢のままいつかの輝月のように両手で温風を受け止めている。ごめんごめんと再び謝罪を口にして、ぴっとリモコンで暖房を切った。
「うわ、えっ。えぇえ。ないじゃん、それは」
途切れた恵みの風に、涙目で詰め寄られた輝月は、目を細めて呆れてみせた。
「はいはい。っていうか、千日通ってくるって言ったのあんただからね。私を責められても」
「でも、千日通って来いって言ったのは姫でしょ」
「私に帰れって言ったのも、あんた。あんたの身に降りかかってる諸悪の根源は、あんた。自業自得自縄自縛因果応報」
珍しく言い負かされて、うっと詰まった今光源氏は、斜め上を見て沈黙している。
それから、そういえばさ、と視線を戻した。
「姫、俺の名前、知ってるか?」
「知らない」
あんた、あんたと連発しすぎただろうか。だよな、と今光源氏はうなずいた。
思えば知らないのだ。躊躇なくすぱっと答えて、確かに知らない、と自分の答えに納得する。転校生自己紹介のとき寝ていたのだから。
「ていうか、姫なんて呼んでたっけ、俺のこと」
今光源氏、と答えたら、なにそれ、と返ってくるに違いない。そうしたら、どうやって説明しよう?
現代の光源氏のことなんて、光源氏はイケメンなんだよなんて、言えない・・・・・・。一人で赤くなって、首を振った。
「さあ。なんて呼んでたっけ」
「いま・・・・・・今、なんとかかんとかって、ほら、先生もさ。『今かぐや姫』みたいな。あれ、どういう意味?」
「えー。私、寝てたし」
適当に誤魔化しておく。
「ふーん・・・・・・ま、いいけど。翔琉ね。翔琉。覚えといて」
「かける・・・・・・」
二度も教えられて、口の中で繰り返す。ああ、確かに。女子たちにカケルくんって呼ばれてたっけ。月で通っていた小学校に同じ名前の子がいたから多少違和感はあるけど、まあ、褒めとこ。
「へぇ。かっこいい」
「えっ、興味ない? すごい棒読みじゃん」
「あ。バレた」
「もーっ。じゃなくて。今日はね」
話を切り替えて、輝月に向き直る。なにか話があるらしい。
「クリスマスパーティー、参加しない?」
まただ・・・・・・。よし。今回こそ断る!
意味のわからない決意をして、顔を厳しく作る。
「嫌だよ」
「い・い・じゃ・ん! クラス皆来るって言ってたし」
駄々っ子みたいに唇を尖らせ、それからまた、胸の前で手を組んで上目遣いにお願いしてくる。
「ね? この前みたいな思いは、させないから」
「・・・・・・っ」
一瞬見惚れてから、ぶんぶん頭を振る。コイツ、いつの間にハニートラップなんか覚えたんだ! 危うく引っかかるところだったじゃないか。今光源氏の美貌を使われてはたまらない。
「ダメ。やだ」
「え〜。お願い! 同じベッドで寝かけた仲じゃん!」
「それはっ・・・・・・あんたが勝手にっ」
初日のことだ。出会った日、母に見つからないように翔琉と抱き合うような格好でベッドに寝てしまった。そのときのことを思い出して赤くなる輝月を置いて、ますます翔琉は追い打ちをかけてくる。
「プレゼント交換あるから。ね?」
プレゼント交換。
「夕食も、割り勘で出る。だから、お金はいるけど、輝月の分は内緒で俺が払うし」
内緒で。
「もしかしたら、友達、できるかもだし」
友達。
「ちょっとで抜けてもいいよ。俺も一緒に抜けるから」
一緒に。
「ぅう・・・・・・わかった」
ここまで言われたら、かえって断りにくいんだもん。ね? そうじゃない?
輝月はうなずいた。その言葉にいつも通り、本当に? やったーっ、と喜んで、今光源氏、改め翔琉は帰って行く。
まただ。もう、あそこまで押されたら首を横には振れないよ。かたく結んだ人の心を柔らかくするようなあの能力、マジ勘弁してほしい。
そのくせ、自分の心にはなにかを抱え込んでいる。
ある道に長けた人が、自分の持つ技術を悪い方向に使ってしまうと他人は手出しが難しくなるもの。
もう、アイツ、人の心を剥くのが上手いのに、自分の心は何重にも覆い隠しちゃって。
剥き方を知ってる分、その反抗方法もわかっている。ああ、タチ悪い。
一人で怒りながら、頭の隅ではプレゼントはなにがいいかなあ、と考え始めていた。
「あっ、南條さん!」
一年半、その苗字を使ってきたけど、未だ慣れていない。
なんじょう、南條・・・・・・あ、私だ。後ろから呼びかけられて、消化してから振り向いた。
「はい」
「来てたんだ」
「あ・・・・・・」
海に来てた女子の一人だ。ただ一人、話しかけてくれた風変わりなお人。
月の都よりももっと身を飾る技術は進んでいる。髪だって巻くだけではなく、茶色やときにはピンクなんかにも染めることができる。この人も、例にもれずにきらきら着飾っていた。
毎朝懇切丁寧に巻いているのだろう、ふわりとまとめられ少しの崩れも見せない外はねのボブに、やっぱりここのJKらしくグロスで彩られた唇が、にこっと笑った。
「こんにちは」
「こん・・・・・・にち、は?」
なんで私?
心は驚いていたけど、表面はどぎまぎしながら、一応軽く会釈しておく。
「朝日! なにしてるの?」
「あっ・・・・・・今行く!」
後ろの派手な集団からかかった声に、その女子、朝日は答えて、それからこっちに向かってウインクでもするように、じゃあまた、と言った。
明るく振る舞っているけど、今の様子や海水浴のときの反応から、この人が集団の圧に苦しんでいるのではないかということは容易に予想がつく。
歓声と話し声がごった返す中で輝月は一人、隅のソファ席に座り、ぼんやりと辺りを眺めていた。
クラスメイトの両親が経営しているカフェを貸し切り、どこからか特大のクリスマスツリーを持ってきて、派手なクリスマスパーティーである。
「姫。どお? 友達はできた?」
隣に翔琉が座る。もう、人の目があるところでは絡まないでって言ってるのに。かなり不満に思うけど、まあ、隅っこだし誰も注目しないからいいか。
「できるわけないじゃん」
皆が皆、人と触れ合うことがあんたみたいに簡単じゃないのよ・・・・・・ついっと顔をそらす。
「え〜。いい人は?」
「いい人って」
その言い表し方に、つい合コンかよ、と突っ込みたくなる。輝月の苦笑をいいじゃんといなして、今光源氏は言い直した。
「気が合う人、みたいなの、いなかった? 話しかけてくれたり、さ」
「話しかけて・・・・・・」
ふっと一人の笑顔が脳裏によぎった。
あっ、南條さん! 来てたんだ。こんにちは。
・・・・・・ああ、ダメダメ。変な期待しちゃいけない。舞い上がったらその分、落ちたときに辛いんだから。急いで頭を振り、追い払った。
「いないよ、・・・・・・そんな、変な人」
「ふーん。そう」
いかにもつまらなそうにうなずいて、翔琉はテーブルに頬杖をついた。
そのときいきなり、拍手とともに声がかかった。
「メインイベント〜」
「プレゼント交換しよう!」
カフェの真ん中に空間が作られる。ずらりと椅子が並べられ、一人一人そこに座った。
「皆、プレゼント出して〜」
おっ、と翔琉が表情を明るくする。
「ほら行こう。姫」
ぐっと手首を引かれて、輝月は立ち上がった。