違和感は、帰郷してから日に日に大きくなっていく。輝月はふっと小さく息をついて、寝返りを打った。高級な布団はふかふかで、ぐっすり眠れるはずなのに。
 一週間余の滞在に、今光源氏と同じ家で過ごすことになってしまったが、それは、孤児院に戻ることに比べればはるかにマシなので置いておく。
 それよりも、今光源氏は、きっと二ヶ月ほどの地上での滞在で、ホームシックになり寂しいから月をあんな目で見つめていて、帰ってやってもいいよと言ったときも、あんなに嬉しそうだった。そう、思っていたのだけど。
 でも、この家に帰って来たときからおかしかった。
 やけに現代風の家で、家具などは最新のもの。おそらく、地上からのお取り寄せだ。
 それはまだいい。帝の息子なのだから、金などは有り余っているのだろう。セレブ、だ。思えば、水着代三千円をぽんと出してきたのも、普段の生活で金銭感覚が狂っていたと思われる。
 それより。
「一週間ぶりって、言ってた・・・・・・」
 家にいるたくさんのお手伝いさん、特に女性、いわゆるメイド。噂話に興じるのは物語の世界だけではないようで、掃除をしながらのトークで、そういう言葉を耳に挟んだ。
 ということは、一週間前に、アイツはここに帰ってきている。
 いや、考え直せば、監視員でもストーカーでもない今光源氏は地上で絶対に輝月とぴったりくっついておかなければならないわけではないため、結構気軽に行き来していてもおかしくはない。
 ここで、もっと妙なことが一つ浮かび上がってくる。
 その綺麗な横顔が曇っているからノスタルジアかと深読みし、血の滲む思いで今回の決断を下した輝月の気遣いは水の泡だったのだ!
 その点がムカつく。隣の部屋で寝ているアイツを羽交締めに、いや違う、そうじゃない。考える上で、その感情はいらない。また言い訳はたっぷり聞いてやるから、それは後で。
 つまり、なんであんなに喜んだんだ、ということ。
 ホームシックではなかったなら、なぜ? なんのために?
 今光源氏の普段の里帰りと今回の里帰りを比べてみると、単身で帰るか、輝月というお荷物がついているか。ということは、輝月と帰ることに意味があった?
 確かに地上から帰ってこいと命じられ、それが、留学してくる前の今光源氏の、本来の目的だ。でも、一時期だけの帰郷は、別になんにもならない。
「両親にご挨拶、でもないし」
 一般人中の一般人である輝月なんかが帝にお会いできるわけもなく、そしてそもそも付き合ってない。結婚まで行くのは、いくらなんでも横暴だ。
 しかも、さらに変なのが、今光源氏の態度。まるで、そうまるで、輝月を楽しませようとしているかのような。自分ではなく。
 さらに、今住んでいるのは別邸のようだが、家族が住む実家に帰る様子も見せない。
 今光源氏はホームシックだなんて、明らかにあの視線だけでおしはかった輝月の思い込みであったと、反省せざるをえない。
 えぇえ? どうなってるんだそこらへん。
 ・・・・・・一気に考えすぎた。普段は使わないせいで脳が散り散りだ。ふっと息をついて、ゆっくりと目を閉じた。