✳︎ ✳︎ ✳︎
しゅるるるる、と空気の抜けるような音とともに、周りのざわめきがにわかに大きくなる。それを押さえるように、夜空に一発。物が落ちた音の比じゃないくらい大きく、雷よりももっと柔らかい音が響き渡った。
続けてどぉんと二発、三発。日が落ちかけた空に上がる花火に、輝月は思わず笑みを浮かべる。
その横で、おおっ、と今光源氏は目を瞬いた。存在くらいは知っていたのだろう、その光景に驚きはしなかったけど、物珍しそうな顔で見つめていた。五秒も経たずに消えてしまう、その儚い光に目を細める。
「綺麗だなぁ」
「うん。すごく」
ごろん、と今光源氏は、風に小さく揺れる草むらに寝転んだ。
「お〜。いい景色だ」
どんなリポーターよりもリアルに感嘆した声を上げるので、つられて輝月も、白地に藍の牡丹が咲く浴衣が崩れないように慎重に横になった。
さらに花火が続く。
「うわすご、可愛い・・・・・・」
なぜかハートに開いた花火に、輝月は驚きつつも感嘆する。
「えっ? あ、綺麗」
一瞬消えかけたと思ったとたんに楕円形に開く花火。
「うわあ、すげえ」
「わーっ。柳みたい」
すっと地に落ちていく、華やかだけど儚い花火。
「おおお、ゴールドだ!」
最後に、四方八方からさまざまな色の花火が打ち上げられ、夜空を自分の色で好きなように染め上げた。
すうっと心地よい余韻を残して、高揚が闇に消えてゆく。
ざわざわとかしましく、浴衣姿の女子や、子供の手を引いた男性女性、朗らかに笑い合うカップルが立ち上がった。
「はーっ・・・・・・」
急に力が抜けて、開きっぱなしだった目を閉じる。あ、と、上半身を起こした今光源氏がびっくりしたような声を上げた。
「なに?」
「あれ・・・・・・」
輝月もよいしょと起き上がり、軽く帯を整えて指された先を見る。今光源氏にとってそれがは、自分の故郷がこんなにも美しいんだという驚きの声だったんだろう。
ぽっかりと、わずかに欠けた綺麗な月が、夜空で光を放っていた。それを見て、思わず黙り込んでしまう。
「あっ、ごめん。あんまいい思い出じゃなかったよな」
「う、うん・・・・・・」
最初の方こそぐいぐいと月に帰ろうと言ってきたものの、拒否し続ける輝月になんとなく察したのか、最近は遠回しな表現ばかりだ。
気を遣わせてしまった。しかし、だからといって気を遣い返すのも変なので、うつむきがちに肯首して、ちらりと今光源氏の横顔を見る。
切なげで悲しそうで、なぜか少し、悔しそうだった。
さすがの今光源氏も、ホームシックになるのだろうか。それも、・・・・・・私のせいで?
いたたまれない。
これまで感じたことのないほどの、湿った感情が、輝月の口から溢れ出た。
「ぃ・・・・・・一回、月、帰ってやってもいいよ。寂しいんでしょ?」
「え?」
弾かれたようにこちらを向かれて、目を合わせてられずに思わず膝に乗った自分の手を見る。
「一回。一回だけ、夏休みが終わる前までならいいよ」
「本当? いいの?」
「うん」
今光源氏が、弾け飛びそうなほど明るい笑みを顔に浮かべる。
でも、問題が一つあった。絶対に、あそこには。そのまま、言葉に乗せる。
「孤児院には、帰りたくない」
「いい、いいよ、いいんだよ。うちにいればいいから。やったーっ、決まりね、決まり!」
そんなに喜ぶ?
狂喜乱舞という言葉がまさにぴたりと当てはまってしまうような反応に輝月は戸惑いを覚えたものの、それほど寂しかったのだろうと思い、まるで子供みたいだとつい微笑んでしまうのだった。
しゅるるるる、と空気の抜けるような音とともに、周りのざわめきがにわかに大きくなる。それを押さえるように、夜空に一発。物が落ちた音の比じゃないくらい大きく、雷よりももっと柔らかい音が響き渡った。
続けてどぉんと二発、三発。日が落ちかけた空に上がる花火に、輝月は思わず笑みを浮かべる。
その横で、おおっ、と今光源氏は目を瞬いた。存在くらいは知っていたのだろう、その光景に驚きはしなかったけど、物珍しそうな顔で見つめていた。五秒も経たずに消えてしまう、その儚い光に目を細める。
「綺麗だなぁ」
「うん。すごく」
ごろん、と今光源氏は、風に小さく揺れる草むらに寝転んだ。
「お〜。いい景色だ」
どんなリポーターよりもリアルに感嘆した声を上げるので、つられて輝月も、白地に藍の牡丹が咲く浴衣が崩れないように慎重に横になった。
さらに花火が続く。
「うわすご、可愛い・・・・・・」
なぜかハートに開いた花火に、輝月は驚きつつも感嘆する。
「えっ? あ、綺麗」
一瞬消えかけたと思ったとたんに楕円形に開く花火。
「うわあ、すげえ」
「わーっ。柳みたい」
すっと地に落ちていく、華やかだけど儚い花火。
「おおお、ゴールドだ!」
最後に、四方八方からさまざまな色の花火が打ち上げられ、夜空を自分の色で好きなように染め上げた。
すうっと心地よい余韻を残して、高揚が闇に消えてゆく。
ざわざわとかしましく、浴衣姿の女子や、子供の手を引いた男性女性、朗らかに笑い合うカップルが立ち上がった。
「はーっ・・・・・・」
急に力が抜けて、開きっぱなしだった目を閉じる。あ、と、上半身を起こした今光源氏がびっくりしたような声を上げた。
「なに?」
「あれ・・・・・・」
輝月もよいしょと起き上がり、軽く帯を整えて指された先を見る。今光源氏にとってそれがは、自分の故郷がこんなにも美しいんだという驚きの声だったんだろう。
ぽっかりと、わずかに欠けた綺麗な月が、夜空で光を放っていた。それを見て、思わず黙り込んでしまう。
「あっ、ごめん。あんまいい思い出じゃなかったよな」
「う、うん・・・・・・」
最初の方こそぐいぐいと月に帰ろうと言ってきたものの、拒否し続ける輝月になんとなく察したのか、最近は遠回しな表現ばかりだ。
気を遣わせてしまった。しかし、だからといって気を遣い返すのも変なので、うつむきがちに肯首して、ちらりと今光源氏の横顔を見る。
切なげで悲しそうで、なぜか少し、悔しそうだった。
さすがの今光源氏も、ホームシックになるのだろうか。それも、・・・・・・私のせいで?
いたたまれない。
これまで感じたことのないほどの、湿った感情が、輝月の口から溢れ出た。
「ぃ・・・・・・一回、月、帰ってやってもいいよ。寂しいんでしょ?」
「え?」
弾かれたようにこちらを向かれて、目を合わせてられずに思わず膝に乗った自分の手を見る。
「一回。一回だけ、夏休みが終わる前までならいいよ」
「本当? いいの?」
「うん」
今光源氏が、弾け飛びそうなほど明るい笑みを顔に浮かべる。
でも、問題が一つあった。絶対に、あそこには。そのまま、言葉に乗せる。
「孤児院には、帰りたくない」
「いい、いいよ、いいんだよ。うちにいればいいから。やったーっ、決まりね、決まり!」
そんなに喜ぶ?
狂喜乱舞という言葉がまさにぴたりと当てはまってしまうような反応に輝月は戸惑いを覚えたものの、それほど寂しかったのだろうと思い、まるで子供みたいだとつい微笑んでしまうのだった。